対大分戦(08−24)。

相手を思えば,慎重なゲーム・プランもアリでしょう。


 仕掛けを基準にゲームを組み立てるのではなくて,隙を見せないという方向からゲームを組み立てることを選択したのでしょう。であれば,ひとつひとつの仕掛けを大事にしたいところなのですが,そのタイミングでチームが仕掛けを強めるという方向でまとまりきれなかったり,プレーの精度がフィニッシュに関わってしまったところがあります。


 このことを反対側から見れば,相手は自分たちの描いたゲーム・プランを相当程度実現できたことになるはずです。「前掛かりにさせる」ということを除いては。


 問題は,「勝ち点3」を奪えずに「勝ち点1」にとどまったことではなくて,相手のゲーム・プランに乗ることなく,同時に自分たちが狙うフットボールを押し出せる状態にないこと,であるように思うのです。ショート・インターバルでは,戦術的な熟成を図っていたものと理解しますが,残念ながら今節は“相手が狙うフットボールを抑え込む”という方向にウェイトが掛かりすぎて,


 戦術的に“リアクティブ”


な状態に陥ってしまったように見えます。


 結果としては妥当,あるいは幸運が作用した「勝ち点1」と感じていますが,その結果の背景にあるものには,疑問を持たざるを得ません。ということで,まいど1日遅れの大分戦であります。


 相手は,守備的な安定性を基盤にしています。


 静的なポジショニングで言えば,3を採用しているはずです。ですが,アウトサイドを低めに構える“実質的な5”の時間帯も多い。守備ブロックを横に揺さぶられる,そして縦方向に飛び出される,というような形を徹底的に抑え込むという戦術イメージを徹底されていることが理解できるものです。


 とは言え,前半は大分に抑え込まれたという印象を受けるものではありませんでした。


 相手守備ブロックに対して,「縦」方向に揺さぶっていく,という戦術的なイメージがピッチにある程度表現できていたからです。


 オフサイドというジャッジがありますから,タイミング的には微妙なズレがあるのでしょう。それでも,物理的にプレー・スペースを狭めてくる相手に対して,縦方向から守備ブロックの隙を突く,という意識が見えていたのは数少ない収穫でしょう。


 ただ,仕掛けをフィニッシュへと結び付ける,あるいはその前段階での「粗さ」が気になったことも確かですし,攻撃ユニットの距離感が決して適切なものではなくて,チームとして作り出すべき攻撃が単発に終わってしまうという部分は,逆に大きなネガティブになってしまったように思えます。


 たとえば。


 アウトサイドでの主導権を掌握して,ボールをアウトサイドからセンターへと展開したとします。そのときに,ターゲットとなりうる選手が本当に少ない。ほぼピンポイントでトラバースを繰り出すことができなければ,攻撃をフィニッシュへと結び付けることができず,相手守備ブロックに仕掛けが跳ね返されたときの二次攻撃がかかりにくい状態になってしまっていたわけです。そのために,決して得点機を作り出せていなかったわけではないにもかかわらず,相手守備ブロックに対しては実質的な脅威を生み出せず,結果として相手の描くゲーム・プランに乗った形になってしまったように思えるのです。


 対して,後半は立ち上がりのタイミングからリズムを掌握されてしまったように見えます。


 相手がラッシュを掛けてきた,ということもあるでしょうが,むしろチームが守備方向に意識を傾けすぎてしまったがために,かえってラッシュを受け止めてしまう形にはまり込んでしまったのではないか,と感じます。守備ブロックがどうしてもゴールマウスに近い位置へと押し込まれてしまっているから,チームをコンパクトに維持しようと思えば,チーム全体が自陣に収まってしまうことになります。また,守備応対に人数をかけてしまうから相手の仕掛けを跳ね返したとしてもカウンターを仕掛けていくような形に持っていくことができない。ボールを収めるポイントが限定されてしまっているような形だから,相手守備ブロックとしては高い位置での守備応対であっても,それほど背後への意識を高めることなく守備応対ができることになる。そのために,ボールが巧く攻撃ユニットに収まってくれず,ボール・コントロールを再び相手に譲ってしまうことになる。


 フルコートでのカウンターを警戒していたのかも知れませんが,実際には後半立ち上がりからの時間帯ではハーフコート・カウンターにさらされてしまう。


 戦術交代によって,守備面でのバランスはある程度回復したのですが,「裏」を執拗に狙っていく,という方向性での戦術的なメッセージは,ベンチワークから感じ取ることができませんでした。


 ・・・「勝ち点3」奪取を狙うのであれば,増幅させるイメージは前半の段階で見出せていたはず。


 オフサイドというジャッジは受けていたけれど,「裏」への姿勢です。そこで,不足していると思える要素を,どのように戦術交代で補っていくか。


 そんな方法論が,少なくとも今節のダッグアウトからは読み取れなかった。


 また,中野田のゲームでありながら,意識はどこか欧州でのアウェイ・マッチを想像させるものです。自分たちのフットボールを押し出すよりも,相手のフットボールを抑え込むことに意識をより強く振り向ける。「勝ち点1」を狙いに行く戦略,とでも言いましょうか。いささか,リアクティブな姿勢に感じられたわけです。


 そして,“ポスト”という幸運によって,「勝ち点1」を得た。


 決して立ち止まったわけではないし,守備的な部分で決定的な破綻を生じることなく90分プラスを乗り切った。また,相手が狙っていただろう罠に嵌り込むこともなかったのですから,難しいハンドリングを強いられたゲームをしっかり戦ってくれた,という印象を選手たちには持っています。


 ですが,オフ・ザ・ピッチという部分を思えば,勝ち点を奪い取ったなどとは到底言えません。「勝ち点3」を奪い取るためのアプローチが,残念ながら読み取れなかったのですから。同じ「勝ち点1」でも,「勝ち点3」を狙いに行った結果としての1と,1を最初から確保する意識での1とでは,重みに違いを生じるように思えるのです。そして今節は,後者であるような印象を強く持っています。


 ピッチでのパフォーマンス,というよりも,ピッチに選手たちを送り出すまでの段階に大きな問題を抱えてしまっているような,そんな印象を持ってしまいます。