焦りと辞任と。

“Head Coach”ではなくて,“Manager”。


 どちらも「監督」を意味する単語ですが,イングランドでは後者を使います。チームに戦術を落とし込むなどという,オン・ザ・ピッチでの責任だけでなく,戦力補強などの人事面に対する責任をも持っている,という意味が込められているわけです。


 であれば,戦力獲得はマネジャーが中心となって進められます。サー・アレックスにしてもアーセンにしても,戦力強化に対する責任を負っています。裏返せば,クラブがコーチング・スタッフの意図とは違った戦力を獲得するなどということはあり得ない,ということになります。


 しかし,そうとばかりも言っていられないようです。ということで,今回は日刊スポーツさんの記事をもとに。


 アップトン・パークを本拠地とする,イースト・ロンドンのクラブ。そのクラブを率いていたのが,アラン・カービシュリーさんです。以前は,テムズを挟んだ反対側,“ザ・ヴァレー”をホームとするチャールトンを率いていた指揮官です。そのカービシュリーさんが,フロントの現場介入に抗議する形で辞任という事態に立ち至ったのだとか。


 この話だけならば,単なる「御家騒動」だけで気にも留めないこと,なのですが,ほぼ同じような話が,マグパイズ方面(日刊スポーツ)からも聞こえてきています。


 まだリーグ戦は3試合(クラブによっては2試合)を消化しただけの段階です。ポジションを意識すべき時期ではないし,戦力的な上積みよりもフレームの構築,熟成を図るべき時期でしょう。なのに,辞任に至った理由が戦力編成をめぐる見解の相違であったり,クラブ・サイドが現場の意向を無視した戦力補強・放出をしたこと,であると。


 かつて,イングランドを特徴付けていたクラブ・フロントとコーチング・スタッフとの関係性が揺らいでいるように思える話ですが,同時にクラブ・フロントが「焦り」を感じるタイミングがかつてに比較すれば圧倒的に速まっている,という印象も同時に持ちます。


 サー・アレックスにしても,アーセンにしても同じ轍を踏む可能性はあったようです。特に,サー・アレックスは,かなり危機的な状況にまで追い込まれてもいます。それでも,クラブ・フロントは彼にファースト・チームを預け続けているわけです。結果として,ユナイテッドはゴールデン・エイジを90年代に築き上げ,同時に緩やかな世代交代を繰り返しながら「高み」を狙いうるポジションを維持し続けています。


 この種の決断を下すのは,クラブ・フロントにとって,ある種のギャンブルなのかも知れません。しかも,レートは相当に上がってしまっている。そして,レートをつり上げている要素を,プレミアシップでは簡単に見つけることができます。それだけ,プレミアシップを取り巻く周辺環境が変化してしまっているとも言えるのでしょうが,少なくとも指揮官にとっては厳しさを増している,と言うことはできるように思います。