対FC東京戦(08−15)。

プレッシングの微妙なギアチェンジ。


 立ち上がりの時間帯,ピッチに表現できたフットボールと,後半に表現せざるを得なかったフットボールとの落差を発生させたのは,戦術交代による影響も無視できませんが,プレッシングの強度が大きく変わってしまったこと,また厳しくプレッシングに入る位置が大きくずれてしまったことなどが絡んでいるように感じます。


 リトリートか,それともカウンター・アタックを高い位置から仕掛けるか。


 そんな択一問題ではない,と思います。


 強めのプレッシングから緩やかなリトリートにチームの方向性を振り向ける時間帯があってもいいかも知れないし,その逆だって十分にアリでしょう。そして当然,強度に変化はあるとしてもプレッシングを徹底する必要があるのですから,そのコンセプトを「90分プラス」(今節に関しては,前後半合算で約6分近くのアディショナル・タイムがありましたが。)押し切れる態勢を,スターター,リザーブを含めて確立しなければならないでしょう。ファースト・ディフェンスが緩くなってしまうようでは,コンセプトの徹底は難しいはずです。


 戦い方の再構築,という意味では「きっかけ」は見えてきました。きましたが,特定のタレントに依存しているパーセンテージがまだ大きくもあります。


 チームとして描くべきプランを,もっと突き詰めないと。と感じるFC東京戦であります。


 浦和が苦手とする,4を主戦パッケージとする相手でありますが,今節も3を基盤に据えています。


 それだけに,パッケージから戦い方にアプローチする,というよりも,仕掛ける姿勢から戦い方を再構築する,という方向性を選んだように受け取れました。


 パッケージ面で言うならば,“コンパクト”さを強く意識していたかも知れません。その姿勢は,相手守備ブロックにボールが収まったタイミングでプレッシングを仕掛けるのではなく,相手守備ブロックからディフェンシブ・ハーフのポジションにボールが収まるか,というタイミングでファースト・ディフェンスを仕掛けていく,という形で,前線と最終ラインとの距離感を調整していたように映ります。


 このボール奪取イメージが,相手のリズムを奪うきっかけになっていたようにも感じます。


 ちょっとFC東京のことを考えてみると,攻撃をコントロールする基盤が,恐らく中盤深い位置に設定されているのではないでしょうか。ディフェンシブ・ハーフのポジションでリズムを構築し,そのリズムからボールを展開していく。ピッチサイズを有効に利用する,というコンセプトを持っているのは確かだろう,と感じますが,攻撃を組み立てるにあたっての起点は思うよりも限定されているのではないか,と感じました。


 FC東京にとっての起点が,ファースト・ディフェンスをチームとして仕掛けるポイントとかみ合っていたような感じです。立ち上がりからリズムを掌握できたことは,間違いなく収穫でしょう。


 しかし,であります。


 後半の戦い方を見る限り,整理すべき課題は多いようにも感じられます。きっかけは,戦術交代です。戦術交代によって,「チームとして」仕掛けるべきファースト・ディフェンス,その起点が自陣方向へと下がってしまった。相手が攻撃をオーガナイズする起点をつぶせなくなってしまったわけです。また,ディフェンシブ・ハーフがボール・ホルダーを追い込むような守備が仕掛けられない,その状況に連動するかのようにアウトサイドが低い位置でのプレーを余儀なくされる時間帯が増えてしまった。


 となると,守備ブロックが相手の仕掛けを真正面から受け止めざるを得ないことになります。コンパクト,という状態を通り越して,チームが前後につぶれた状態になってしまったように見えるのです。


 「仕掛ける」守備ではなくて,「受け止める」守備となってしまう。これでは,ボール奪取が攻撃の起点としては,なかなか機能してくれない。跳ね返したボールに対して相手が反応し,再びビルドアップしてくる。そのビルドアップを低い位置で跳ね返す。


 悪循環,であります。それでも,決定的な破綻を生じなかったのは,相手の仕掛けが単調だった部分もあるように思えます。


 確かに後半において,ハーフコート・カウンターの状態へと持ち込まれていた時間帯は長かった。長かったのですが,守備ブロックを崩しにかかるという局面でのアイディアに単調さを感じたのも確かです。アウトサイドからの仕掛けに広がりを感じることは少なかった。アーリーを狙うわけでもなく,センターへと絞り込んでいくような動きを積極的に見せるでもない。トラバースを繰り出してはいたけれど,そのトラバースに複数の選手が反応するわけでもない。相手がある意味,「縦方向への鋭さ」を欠いたような仕掛けを繰り返したがために,守備ブロックが破綻しなかったように感じられます。仕掛けに“ギアチェンジ”を仕掛けられるようなチームが相手では,リズムを奪われることも考えておかなければならないように思えます。


 ・・・「勝ち点3」を奪取しているのに,「勝ち点0」であるかのようなエントリですが。


 チームの戦い方が,戦術交代で揺れてしまうのはもったいない,と思うのです。


 達也選手がピッチに表現したフットボールは,達也選手だけが表現していればいいものではなく,ピッチに立つスターターすべてが表現しなければならない要素です。なのに,達也選手がダッグアウトに下がってしばらくすると,チームが表現するフットボールがネガティブに変化してしまう。プレッシングの連動性も低下してしまう。


 これでは,チームをコンパクトに,というコンセプトも揺らいでしまうし,チームを加速させるためのギアチェンジも難しくなってしまうはずです。


 リズムを掌握されたことが失点に直結しなかっただけで,大きな課題を突き付けられているのには違いないと思うのです。


 勝ち点3をひさびさに奪取したのは,確かに収穫です。でも,「結果」ですべてを終わらせるわけにはいきません。達也選手が描いたプランを,もっと多くの選手が主体的に表現できるように。


 そのきっかけとしてのゲーム,と見るべきではないかな,と思うのです。