対柏戦(08−14A)。

的確なスカウティングをもとに,戦術的な鍵を見い出す。


 その鍵を,自分たちの表現すべきフットボール・スタイルに差し込んでいく。アウトサイドでの主導権を最優先項目として位置付け,さらに“スペース”を明確に狙った攻撃を徹底して意識付ける。


 恐らくは,理想的なトレーニング・スケジュールだったのではないでしょうか。もちろん,中断期間も充実したものだったのでありましょう。


 ・・・柏が,ですけど。


 いつもの通り(以下省略),の柏戦(アウェイ)であります。


 ごく大ざっぱに言ってしまえば,戦術的な課題は中断期間を経過しても積み残された,という印象です。合宿が意図する効果を生んでいない,とも言えるでしょうか。
 ですが,立ち上がりの時間帯だけに限定して言えば,「戦術的な柔軟性」,そのきっかけは見えていました。静的なパッケージを固定するのではなくて,柔軟に変化させることで相手の攻撃に対して対応していこう,という姿勢がピッチに表現されていたように思うのです。


 思うのですが,柔軟に変更されたパッケージを機能させるために必要不可欠な要素が欠けている,あるいはあまりに不十分な状態にとどまっているのでしょう。静的なパッケージを意味する「数字」,その前段階である要素からちょっと考えてみようと思います。


 柏の戦術パッケージは,4を基盤とするものです。4−5−1,あるいは2トップを縦の関係で位置付けて,トップの枚数を流動的に変化させる,という形です。


 この形に対して,浦和は立ち上がりの時間帯で,柔軟な対応をします。3をちょっとだけ旋回させたわけです。


 アウトサイドの一方をDFラインに組み込むと同時に,反対方向のストッパーがサイドに開くような形でポジショニングし,アウトサイドの選手と縦の関係を構築する,という調整をかけたわけです。この対応,決して間違ったものではないと思います。
 思いますが,このパッケージを生かすためには必要不可欠であるはずの“コンビネーション”,このコンビネーションという部分で今節は決定的な問題を露呈したように思うのです。


 ごく大ざっぱに言ってしまえば,アウトサイドでボールを奪いに行くのか,それともセンターに追い込んでいくようにアウトサイドが守備を仕掛けていくのか,そのイメージがまったくと言っていいほどにピッチからは感じられなかったのです。そして,守備対応で重要な役割を果たすはずのディフェンシブ・ハーフが,相手に対するプレッシャーを有効に掛け与えることができていませんでした。アウトサイド,そして擬似的な4の時間帯であればストッパーやスイーパーとのコンビネーションを構築することで守備応対をしていく必要があるのですが,ファースト・ディフェンスという部分でも緩さを感じましたし,ボール・ホルダーに対する数的優位を構築する,という形でのボール奪取はほぼ見えませんでした。
 また,3を旋回させるとしても,どの方向へと旋回させるのか,旋回軸にはじまる約束事が徹底されているとは感じられませんでした。そのために,単純にアウトサイドがディフェンス・ラインへと吸収される時間帯もありました。


 アウトサイドが,どのようにして相手のサイド・ハーフとSBをチェックするのか,あまりに不明確なのですから,相手はほぼ自由にアウトサイドからの仕掛けを繰り出すことができます。プレッシャーを中途半端にしか掛けられないから,バイタルからあまりに危険なトラバースを繰り出されもした。クロス・バーを直撃したショットもありましたが,チームとして問題にすべきはアウトサイドがあまりにも自由にダイアゴナルに動けてしまったことであり,詰めるタイミングの問題,とも言えるようなトラバースを許したこと,になるでしょう。


 さらに,仕掛けでは縦方向の流動性が今節においても抑え込まれていました。


 ボールを預けて,さらにボール・ホルダーを追い越していくような動きがあまりに少ない,という印象です。ディフェンシブ・ハーフ,この場合ではセントラル・ミッドフィールダーと言うべきかも知れませんが,セントラルはボールを散らす動きまでは見られるのですが,散らした後にボールを収めた選手に対するバックアップであったり,さらにボールを呼び込み,スペースを狙うような仕掛けは繰り出せていませんでした。また,アウトサイドがセンター方向へと絞り込んでいくような動きは見せることができませんでした。攻め込むとしても,クロスを繰り出すという選択肢以外があまり見えなかったわけです。それでも,センターがスペースを狙っていける状態ならば,トラバースが有効性を持つのですが,裏を狙って仕掛けていく,という形はなかなか見えなかった。


 「組織として」表現すべきフットボール,という点では,完全に柏の後塵を拝した形です。


 ・・・3を応用する,という形が見えたのは収穫かも知れませんが。


 「勝ち点0」は妥当な結果以外の何物でもないでしょう。
 かつての浦和を支えた流動性は影を潜め,今節はネガティブな意味での“ポジション・フットボール”になってしまっています。相手に,攻略すべきスペースを与えているようなものです。昨季,同じように国立霞ヶ丘で開催されたアウェイ・ゲームはピッチでの化学変化を感じることができました。4に対して,明確な処方箋を持たずに“スタイル”だけを言うのであれば,「思考停止」と変わるところはありません。


 次節も,同じようなコンセプトを持ったチームが相手です。どのように,戦術的なモディファイを加えてくるのか。無策であることは許されないはずです。