スコラーリ、スタンフォード・ブリッジへ。

ナショナル・チームではなくて,クラブでしたか。


 確か,ファビオ・カペッロが就任する直前だったか,イングランド代表監督か,という観測が流れたと記憶しています。そのときは,イングランド・メディアからのプレッシャーを(表面的な)理由にこの観測を否定していました。


 端的に言ってしまえば,熟成度を高めてきたポルトガル代表を手放したくなかったのだろうな,と欧州選手権を見ながら思ったりします。チームを再構築しなければならない(果実を得るまでに相当な時間がかかる)スリー・ライオンズを預かるよりも,着実なチーム・ビルディングを経ているポルトガルを選んだのだろう,と。


 恐らく,優勝を狙うだけのポテンシャルを持ち,実際にピッチで表現できるパフォーマンスへとつながっている。となれば,欧州選手権をもってポルトガル代表監督としてのチャプターを閉じ,イングランドを代表するリーディング・クラブ,そのマネジャーとしてのチャプターを開く,ということなのでありましょう。


 今回は,ポルトガル代表監督のスコラーリがチェルシー監督就任(スポーツナビ)という記事をもとに書いていこうかな,と。


 イングランドでの「監督」。


 “Head Coach”ではなく,“Manager”と呼ばれます。戦術的な要素も確かに問われるのですが,それ以上に優れた「戦略家」であること,そして明確な個性によって選手をまとめ上げる能力が要求されるポジション,と考えるべきではないか,と思います。チームの将来像に対して明確なビジョンを持ち,そのビジョンを基盤としながら選手獲得,補強などチーム構築に関して責任を負っている。また,その持っている知性やフットボールに対する見識,あるいはフットボールという競技に対する情熱などによってチームを束ね上げていく。対して,具体的な戦術面に関しては,マネジャーの個性と並ぶようにアシスタント・コーチの能力が求められる部分も大きい。サー・アレックスがあれほどまでの長期政権を維持できている理由のひとつには,アシスタント・コーチの持っている能力があるのではないか,と考えています。ブライアン・キッドやスティーブ・マクラーレン,そしてカルロス・ケイロス。彼らの能力を巧みに引き出しながらチームを組み立てている,という印象があるのです。


 この点,アーセンやジョゼは自分の持っている戦術的な引き出しをより積極的に使っているような印象を持っています。


 前任であるグラントさんは,どちらかと言えばサー・アレックス的だったように感じます。戦術的な部分では,アシスタント・コーチであるテン・カーテさんに負う部分が大きかったようにも感じるのです。ただ,前任のジョゼやサー・アレックスなどと比較してしまうと,チームを束ね上げていくに足る「明確な個性」を持っていなかったようにも思うのです。


 確固たるビジョンと,強い個性を持ったフットボール・コーチ。


 そんな条件があったのだとすれば,ルイス・フェリペ・スコラーリという人物は有力な選択肢となるでしょう。かつてプレミアシップ・ポイント記録を塗り替えて優勝を飾った,スタンフォード・ブリッジに本拠を構えるクラブは,スコラーリの就任によってそのインパクトを取り戻すことができるか。かつて,(ちょっとスタンフォード・ブリッジからは遠めではありますが)同じウェスト・ロンドンに住んでいた人間としては気になるところです。