対川崎戦(08−12A)。

かつての姿とは大きく違う。そうかも知れません。


 かつての姿を具体的に持ち出すならば,駒場でのゲームでありましょうか。


 お互いが,守備的な安定性よりも攻撃面を前面に押し出して90分プラスを戦う。ひとつのゲームとして見れば,そしてアウトサイドから見れば,プロフェッショナルが表現すべきエンターテインメントに溢れたゲーム,という評価になるでしょう。


 しかし,プロフェッショナルとしてのもうひとつの評価軸を持ち出せば,“エンターテインメント”と好意的に評価するわけにはいかないのも確かです。


 このときは,“アウェイ・ゴール”制が導入された初年度だったかと記憶しています。ホームだから,といって,単純に攻撃性だけを意識しているわけにはいかなくなっていたのです。どのようにゲーム・コントロールしながら,しかも先制点を奪取して90分ハーフのゲームでの主導権を掌握するか,が厳しく問われるトーナメント形式へその姿を変えていたのです。この視点から見れば,エンターテインメントとして高い評価を受けたとしても,決してゲーム・マネージメントとしては褒められた展開ではないはずです。


 今節の姿は,かつての姿からすれば対極に位置しているかも知れません。キャッチフレーズ的に言うならば,“アンチ・エンターテインメント”を貫くことで勝ち点3を奪いに掛かったゲームと評価すべきでしょう。それでも,真正面から鍔迫り合いを挑み続けたという部分では,決して印象が大きく変わるものではないだろう,と思っています。


 いささかマクラが長くなってしまいましたが,まいど1日遅れ,の川崎戦であります。


 スタッツから見れば,相手が主導権を掌握していたのではないか,と見えます。


 しかし実際には,双方が主導権を掌握しようとし続けたゲームであり,同時にいい形で相手が仕掛けられないように,という守備面での意識が高く保たれ続けたゲームであったように感じられますから,スタッツが示しているのはあくまでもゲームの持っているひとつの側面であるように感じます。


 さて,浦和の静的な戦術パッケージであります。


 再び,前節から変更を受けています。と言っても,パッケージは基本的に3−5−2。
 変更の焦点は,コンビネーションに求められるでしょう。ディフェンシブ・ハーフのコンビネーションを,前節後半のパッケージでスタートさせます。となると,スターター段階で右アウトサイドの構成が変更を受け,さらにオフェンシブ・ハーフも変更を受けることになります。


 ピッチから受ける印象としては,相手のストロング・ポイントを徹底的に抑え込むという守備的な方向性を徹底するゲーム・プランを持っていたのではないか,と感じるところがありますが,パッケージの構成を見ると,縦方向での連携を高め,シンプルに仕掛けを組み立てることを強く意識してもいたのではないか,と感じられます。


 そして,相手でありますが,相手の主戦パッケージも3−5−2であります。


 双方のパッケージが真正面から対峙する形,です。ここで,意識が攻撃面か,それとも守備面に傾いているかでゲームの印象が左右されるのですが,今節は守備面にウェイトが掛かっていたように感じます。


 ここで,「隠れた舞台装置」になったのがピッチ・コンディションではなかったか,と思います。ウェットからヘビー・ウェットへと変化していったコンディションでは,ボール・コントロールはかなり難しいはずです。パスを繰り出すとしても,またパスを収めるとしても,微妙なズレを生じかねない状態だったはずです。仕掛けを加速させるタイミングに,なかなか仕掛けをスムーズに加速できずに相手のディフェンスに掛かってしまう,という局面が特に前半は多かった。それだけ,双方の中盤が攻撃リズムを掌握しようとすると同時に,相手にリズムを引き寄せさせないように,守備意識を高めていたのだろう,と感じます。


 その均衡が崩れたのは,ちょっとトリッキーなダイレクト・プレーから生まれたものでした。ボールをホールドした時点で,反転するタイミングを省略してグラウンダー・パスをヒールで繰り出す。前線に対して流れを大きく減速させないよう,シンプルにパスを繰り出す,という戦術イメージが見えてきている,ということを感じさせる局面でした。


 ・・・結果として,このプレーがPKを呼び込み,そしてPKが決勝点となったわけですが。


 このゲームでは,守備意識が間違いなく勝ち点3奪取の原動力として作用したはずです。中盤から最終ラインへと追い込んでいくような守備を取り戻してきたな,という印象もあるし,最終ラインがボール・ホルダーに対して厳しい守備応対を安定して繰り出せた,という収穫もあります。
 ただ,攻撃面を考えると,攻撃ユニットが揃いきっていない状態ではありますが,もっとシンプルに組み立てることができるはずだ,と感じます。今節においては,攻守においてリズムを生み出す中盤で厳しいプレッシャーが相手から掛かっている。それならば,攻撃リズムをさらに早めていきたい。プレッシャーを真正面から受け止めながらボールを動かすのではなく,プレッシャーを回避しながらボールを展開していく,という方向性が見えてもよかった。緩やかに連携はスムーズさを持ってきているな,と感じられますが,まだボールを引き出す動きが不足しているように感じられるし,再びボールを呼び込むためのフリー・ランなどの部分で,仕掛けるときの圧力がチームとして演出しきれない時間帯がある。


 守備面での収穫は間違いなく,シーズン終盤などには大きな要素になり得ます。ですが,中盤に差し掛かる段階では攻撃面での連携アップも追い求めてほしい。どれだけ,守備面での安定性を崩さずに,攻撃面でのリズム・アップを果たせるか。今節,闘莉王選手が見せた,トリッキーではあるけれど,縦にシンプルに,そして前線のスピードを活かしたパスは,攻撃面でのヒントを与えるものだと思います。