対千葉戦(08−11)。

ある意味,最もハンドリングが難しい時期でしょう。


 本格的な熟成段階と言うには,戻ってきていない戦力が多い。多いのみならず,1節を終了するたびに戦線離脱を余儀なくされる選手が出てしまう。


 戦力的な基盤を確定させて熟成させる,というアプローチは使える状態ではありません。また,確定させることのデメリットを昨季は露呈してもいます。むしろ,リアリスティックに勝ち点3を奪取する姿勢を持ち,同時に戦力的な基盤を広げていく,という戦略を描きながら(恐らくは,描かざるを得ないのかも知れませんが)戦っているのではないか,と思います。


 そして,熟成速度はいささか緩やかだけれど,戦術的なイメージが束ねられつつあるようにも感じられます。時間帯を問わずに仕掛けを分厚くする,という意味ではなく,仕掛けをチームとして加速させるべき時間帯に,仕掛けが自然と分厚くなっていく。そんな形が,特に後半には見える時間帯があった。


 猛烈に立ち上がる二次曲線ではないけれど,少なくとも上昇傾向を見せはじめてはいる。そんな印象を持っている,千葉戦であります。


 指揮官の個性が明確に表われたのは,後半キックオフ直後の静的なパッケージだったように感じます。


 キックオフ直後のパッケージは,3−5−2。このパッケージに変更を仕掛けてきたわけです。


 フォースがピッチに向けたLEDディスプレイには,“3”が表示されています。


 後半立ち上がりでの,永井選手から細貝選手への戦術交代であります。ともすれば,永井選手の負傷による不可避的な交代だったかも知れませんが,この戦術交代がゲームを動かすひとつの鍵になったのではないか,と思います。


 ディフェンシブ・ハーフの構成に変更をかけ,前半にディフェンシブ・ハーフとしてプレイしていた闘莉王選手を前線へと引き上げる。そして,前線は距離感を保ちながらほぼフラットにポジショニングし,ミッドフィールドもアウトサイド,ディフェンシブ・ハーフが微妙なギャップを作りながらもフラットなポジショニングを見せる。


 3−4−3,であります。


 前半の段階でも,仕掛けに連動性を感じる局面は作られていました。ただ,ボール・ホルダーに対してサポートに入っていくタイミングに微妙なズレがあったり,(当然,相手のマークという要素が介在しますが)トップにボールが収まったときにパス・ワークが寸断されてしまう時間帯もありました。


 前半にチームが見せた方向性は,間違っているものではない。しかし,さらに積極的にボールを走らせないと,相手守備ブロックに決定的な破綻を生じさせるのは難しい。まだ,「使い使われる」という関係性が明確になりきれていないということを示したのが,前半だったかも知れません。前線に「何とかしてもらう」動き方ではなく,前線をどれだけバックアップできるか,が結果として前線を生かす形になると思うのですが,まだこの部分での戦術的なイメージは固まりきっていないように受け取れます。


 3−4−3への変更は,チームをコンパクトに,選手間の距離感を適切なものに保ちながらパス・ワークによって相手守備ブロックを揺さぶる。トップの決定力だけに依存した攻撃を仕掛けるのではなく,中盤や最終ラインが積極的に仕掛けに関与する中から攻撃を構築していく,という戦術的なメッセージだったように感じます。


 縦方向の流動性が明確に表現されるようになると,仕掛けに分厚さが表現されるようになっていく。前半,ある程度の流動性を表現することができながら,膠着した状態からなかなか抜け出せなかったゲームが明確に動き出した,そのきっかけが後半開始時点での戦術交代だったように感じます。


 また,今節においては“バランサー”としてのディフェンシブ・ハーフではなく,攻撃面を強く意識したディフェンシブ・ハーフという側面を比較的強く表現できたのではないか,と思います。チームがリトリート的な方向性を打ち出してから,どうしてもディフェンシブ・ハーフが守備的な要素にバランスを強く傾けた,バランサーとして機能する時間帯が増えていたように思います。そのバランスがあまりに守備面へと傾き過ぎてしまうと,かえってチームの持っている守備的な安定性が失われる。守備ブロックへと追い込んでいくはずなのに,実際には守備ブロックが「跳ね返す」ような守備応対をしなくてはならない。


 守備面と攻撃面のバランスを,(守備的な要素を落とさずに)再び攻撃方向へと引き戻す必要性を指揮官は徹底しているのかも知れません。前半では,静的なパッケージを積極的に崩しながら相手守備ブロックを揺さぶっていくという局面は少なかったように思いますが,後半ではディフェンシブ・ハーフが積極的に攻撃参加していく局面が増えていたように思います。


 また,闘莉王選手に代えて投入された内舘選手もそうでしたが,ミドルレンジからゴールマウスを狙う“後方からのフィニッシャー”としての要素も表現されていました。


 ・・・局面ベースではアラが確かに残っていますし,前半のゲーム・マネージメントはシビアな勝負を挑まれたときに致命傷へと直結する要素をはらみます。ポジティブな循環が生まれつつあるのは確かですが,まだ本格的な熟成を進める段階ではないし,シッカリと戦術的な要素を理解している基盤を徹底的に広げていく,このステップを疎かにすることはできないはずです。


 リーグ戦中盤から最終盤にかけて,チームが加速態勢を取れるか否か。


 恐らく,チームの基盤がどれだけ大きいかが意味を持つはずです。現段階で,難しいハンドリングを強いられていることが,終盤になって意味を持てばいい。そう思います。