対札幌戦(08−09)。

立ち上がり,相手に主導権を掌握されてしまう。


 積極的に仕掛けると言うよりは,相手の仕掛けを受け止めるところからゲームがはじまる。“スロー・スタート”というよりは,始動性があまりに悪いエンジンのような立ち上がりをしばしば見せる。


 今季序盤の課題を,克服していこうという姿勢は見えたように思います。ただ,相手は積極的に仕掛けてくるだろうことを見透かしていたように感じますし,仕掛けさせて裏を狙う,という意識を徹底していたように感じます。


 例によって(以下省略),の札幌戦であります。


 ごく大ざっぱにゲームを表現するならば,主導権を掌握するべく仕掛けていたにもかかわらず,結果的には相手のゲーム・プランの中で仕掛けさせられていた時間帯が前半には存在していたように感じます。


 とは言え,前半の段階でゲームをイーブンの状態に引き戻せたことで,ゲーム全体のリズムを取り戻し,後半立ち上がりなどには浦和が狙うべき仕掛けの姿も表現できた。そんなゲームではなかったかな,と思います。


 では,見ていきますと。


 立ち上がり,どうしても相手に主導権を掌握されるのが,今季の形です。


 その形から抜け出すべく,立ち上がりから積極的に仕掛けを強める,というイメージを徹底していたように受け取れますが,相手はそのゲーム・プランをかなりの部分で想定していたようです。


 中盤でのボール奪取で真正面から勝負を挑むのではなく,ボール・ホルダーを追い込むようなプレッシングを仕掛け,前線へとボールが収まる前段階でボールを奪取,そこからシンプルにボールを前線へと繰り出していくような戦術イメージをかなり徹底していたように受け取れます。


 そんな,相手の描いた戦術イメージにはまり込んだのが,ゲーム立ち上がりです。


 ビルドアップから中盤が前掛かりになったタイミングを狙われ,先制点を奪取されます。中盤がボール・ホルダーに対して仕掛けを減速させるようなプレッシングを仕掛ける,という前提があれば,最終ラインがボール・ホルダーを抑え込むという形での守備も機能するけれど,この局面では中盤が相手の仕掛けを減速させる,という形ではほぼ機能せず,最終ラインだけで守備応対をせざるを得ない形になってしまったように見えます。


 リズムを掌握しようとして,逆に主導権を握られてしまう。相変わらず,決して望ましくない立ち上がりになったわけですが,チームの反発力が強かったのも確かです。オフサイド,というジャッジを受けはしましたが,19分という段階で仕掛けの形が相手に対して機能していることが感じられましたし,24分にはミドルレンジからのシュートによってゲームをイーブンへと引き戻すことに成功します。


 しかし。この直後のセットプレーで再びリードを許すことになります。


 ゴール中央付近に守備の意識が集中してしまったのか,1列低い位置から飛び出してくる選手に対するマークが完全に外れ,プレッシャーがまったく掛からない状態でのヘッダーを許してしまいます。このヘッダーによって,再びリードを許すことになります。


 その3分後にはCKからヘッダーを叩き込み,2−2へと持ち込みます。この時間帯までは,いささか落ち着かない状態が続いたように感じますが,再び同点へと持ち込んだあたりから,ゲームをコントロールできるようになっていったような印象を持っています。相手がボール・ホルダーに対して厳しいプレッシングを仕掛ける時間帯が少なくなり,パスを繰り出す時間的な余裕やパスを狙うスペースが広がってきた。また,アウトサイドが(あくまで相対的に,ですが)高い位置を維持できていたことで,中盤でのパス・ワークが仕掛けへと直結するようになっていく。あえて大ざっぱな言い方をすれば,「組織」を維持するための「個」が,浦和の個によって綻びを生じ始めた,というような感じでしょうか。


 追加点を奪取した局面で起点となったのは,アウトサイドでありました。


 距離感,という部分で最終ラインとの距離感が必要以上に圧縮されているようだと,守備面においても,攻撃面においてもチームが表現すべきパフォーマンスが低下してしまうし,ハンドリング・ミスであったりパス・ミスが脅威へと結び付いてしまう可能性が高くなってしまいます。今節においても,立ち上がりの時間帯には低い位置でのプレーがあったように感じますが,後半では攻撃ユニットとの距離感が修正されていたように見えます。であれば,攻撃面での選択肢も広がっていきますし,相手守備ブロックに対する脅威を作り出す,その起点として機能していく。


 また,攻撃ユニットのイメージがある程度摺り合わされてきたような印象を,今節は受けたように思います。GKがプレース・キックを収める起点として意識しているのは,間違いなく右アウトサイドです。アウトサイドからどのようにしてボールを引き出すか,というイメージが固まりつつあるように見えますし,アウトサイドのポテンシャルをどのようにして仕掛けへと結び付けていくか(そのためには,高い位置でプレーしている時間帯を増やすことが不可欠な条件となるはずです。),という戦術的なイメージが,ようやく前線やトレクワトリスタとの間で共有されはじめたように見えます。


 カウンター・アタックから追加点を奪取した局面では,トップの動き方に連動性を感じることもできた。まだ時間帯限定ではあるにせよ,チームが持つべきイメージが明確に像を結びつつあるように受け取れました。


 ・・・まだ,2008スペックが明確に表現されているとは感じられないけれど,時間帯を限って見れば,基盤となりうる要素はピッチに表現されていたように思います。


 「個」と「組織」の大ざっぱな言い方を再びしますと。


 軸足が個に置かれるか,あるいは組織に置かれるかはクラブの個性に直結するところですし,指揮官の持っている哲学にもかかわるところです。ただ,どちらも必要な要素であることには違いありません。


 浦和の場合,軸足は個に置かれるでしょう。


 この前提は変わらないとしても,個を基盤とする組織が見え始めたのが今節,という印象を受けます。ただ,個だけに依存してしまうとバランスが悪いのも確かです。もっと周囲を使うことで,自分が生きるという局面が,今節にもあったように思います。個を徹底的に生かす,あるいは生かしてもらうのであれば,コンビネーションの意識を高めていくこと,コンビネーションを戦術的なイメージとしてシステマティックに整理していくことも不可欠な条件であるはずです。


 今節はひとつの足掛かり。この足掛かりから,どういう姿へと変化していくのか。やっと,そういう段階に入ったような感じがします。