対新潟戦(08−03)。

「奇策」と言えば,確かに「奇策」です。


 ですが,「縦」を強く意識しながらパッケージを組み立てようと思えば,実際にはかなり論理的なアイディアではないか,と感じます。


 新潟戦であります。


 機能性,という部分ではまだ熟成途上の印象が強く残ります。この機能性を構築させ,熟成させるスピードを加速させるために,今節奪取できた「勝ち点3」は意味を持つはずだと思いますし,持たせなければならない,と感じます。


 では,今節の特徴である,戦術パッケージの話からはじめることにします。


 いわゆる「数字」で表現するならば,3−4−3,あるいは3−4−2−1であります。今節において,最も特徴的だったのが,“ディフェンシブ・ハーフ”のポジションであります。守備的な安定性に傾けて考えるならば,ディフェンシブ・ハーフを実質的にツイン・アンカーとして位置付けることもできるでしょう。オフト時代は,間違いなくツイン・アンカーを意識したスターターでもありました。
 ですが,攻撃面を考えると「前後分断」という問題を抱えることになりやすいし,何よりも分厚さを作り出すことが難しい。守備面にあっては,前線からのフォア・チェックが安定して機能しなければプライマリー・バランスが最終ライン方向に傾いた状態になります。結果として,相手ボール・ホルダーがプレッシャーの掛かっていない状態でアタッキング・サードへと侵入してきてしまうことになるから,守備応対が難しくなってしまうことにもなりかねない。


 守備的な安定性を意識したはずなのに,結果的には不安定になってしまう。


 実際,08シーズン立ち上がりの不安定性は,プライマリー・バランスが不安定になっていることを示しているものでもあったように思います。そのバランスを矯正するために,まずはディフェンシブ・ハーフの構成を変更してきたのではないか,と。


 攻撃面での「縦」と,守備面でのバランスをどう見出すか。そこで行き着いたのが,今節のスターター・パッケージだろう,と感じます。


 今節は,課題を継続した部分と,課題解消への道筋がより明確に見えてきた部分とのコントラストがハッキリしていたように感じられます。課題を継続してしまった部分とは,プライマリー・バランスの不安定性です。


 ごく大ざっぱに言ってしまえば,まだ全体がコンパクトになりきれていないし,前線のフォア・チェックが「組織的」なものへと熟成しきれていないような印象が残ります。ひとりひとりのフォア・チェックは徹底している印象があるのですが,個別的なフォア・チェックにとどまってしまって巧く連動していかないから,相手ボール・ホルダーを結果として自由にさせてしまう局面が目立ってしまう。そのために,どうしても守備ブロックにかかる負担が大きくなってしまう。


 また,「相手を受け止める」という意識がまだ強いのか,守備ラインが引いてしまう時間帯がまだ多いように感じられます。失点,という形での破綻こそなかったものの,まだ先取点を奪取していないタイミングで相手にリズムを掌握されてしまった,という部分はチームとして,戦術的な対応をしていかなければならない要素でしょう。立ち上がり,積極的にラッシュを仕掛けながら想定外の戦術交代によって,チームのバランスが微妙に崩れた,という事情もあるのでしょうが,リズムを早い段階で自律的に取り戻していかないと,破綻を突かれる可能性もある。その意味で,先制点奪取はともすれば悪循環にはまりかねなかったチームに,ポジティブな影響を与えるものだったと感じます。


 逆に,課題解消への道筋がより明確に見えてきた部分でありますが。


 やはり,追加点奪取につながった後半開始直後の攻撃でしょうね。シンプルなパス・ワークと,「縦」方向の高い流動性を組み合わせた攻撃によって相手守備ブロックを揺さぶり,ディフェンシブ・ハーフがフィニッシャーとして機能する。チームが強く意識すべき攻撃の形が,端的に表現された時間帯だったのではないか,と感じます。


 また,“カウンター・アタック”が仕掛けられるようになっている,という部分も収穫でしょう。ただ,単独突破という形が現状ではちょっと多く,ボール・ホルダーに対する効果的なサポートという部分では,まだ距離感が適切になりきれてはいないようにも見えます。カウンターを仕掛けられるタイミングを見逃すことなく,仕掛けていく姿勢が見えていることは間違いなく,ポジティブな要素です。その要素を,戦術的なピクチャーとしてしっかりと攻撃ユニットが共有できること。突破を組織的な部分に生かし,逆に組織を突破に生かす。そのバランスを,ちょっとだけ組織方向に傾けていくことが求められているのかな,と感じます。


 ・・・パッケージの変更ですけれど。


 確かに,一定程度の成功を収めたな,と思います。ただ,割り引いて考えるべきだろうとも感じます。


 本来,ディフェンダーとして高いパフォーマンスを持った選手ですが,攻撃面でのパフォーマンスも高い。確かにその通りですが,ディフェンシブ・ハーフに求められる動き方が100%表現できるわけではありません。むしろ指揮官としては,彼が持っている積極的な縦への(攻撃的な部分の)意識をチームとして共有すべく,実戦を通したメッセージとして発信したかったのではないかと感じます。


 理想を言うならば,最終ラインとディフェンシブ・ハーフとの関係での流動性も確保したいし,ディフェンシブ・ハーフと攻撃ユニットとの流動性をも確保したい。彼は最終ラインで流動性を演出するキー・プレイヤーであるべきだし,ディフェンシブ・ハーフのポジションには攻撃面を強く意識しながら攻撃ユニットとの関係性を表現するタレントが収まっている,という形を模索するべきでしょう。


 今節の形が,何らかの「化学変化」をもたらすでしょうか。もたらすとすれば,このゲームが再構築に向けた転換点,ということになるかな,と感じます。