対名古屋戦(08−02)。

ハーフタイムを終えて,フォースが掲げたLEDディスプレイには“9”が。


 ハーフタイムに,浦和サイドのダッグアウト前でアップの強度を上げていたのは,永井選手でした。この戦術交代によって,少しだけチームの方向性が見えてきた,と言いますか,本来持っているイメージを取り戻すことに成功した,というように感じます。フリーランが,縦への推進力へと結び付く局面が増えてきたようにも。


 後半立ち上がりの時間帯,チームがダイナミズムを取り戻したように感じられたのは,恐らく偶然などではない,と思っています。ごく端的に言ってしまえば,チームのフレームが07スペックに(部分的であるにせよ)戻ったことで,連動性を取り戻すことができたのではないか,と感じるのです。


 ただ,この状態は「時間帯限定」でした。


 2度目の戦術交代によって,“アンカー”が交代してしまいます。攻撃,守備両面にわたってのバランサーが下がってしまったことで,再びボールが落ち着かなくなってしまいます。


 投入された梅崎選手,彼が見せたパフォーマンスは確かに,大きな意味があった。あったからこそ,プライマリー・バランスを決定的に崩すような形で投入されたことに,ガッカリした部分があることは確かです。


 それでも,前半よりはまだ「方向性」を見せた時間帯があるだけ,いいのかも知れません。


 第2節・名古屋戦であります。


 相手の仕掛け方は,確かにオーガナイズされていました。


 鋭く,素速いファースト・ディフェンスによってボールを高い位置で奪取,シンプルなパス・ワークからフィニッシュへと結び付ける。そして,相手が意識していたのはセンターではなく,アウトサイドにあった。3バック・システムが抱えることの多いリスク・ファクタ。そのリスク・ファクタを的確に突いてきたわけです。


 彼らがピッチで表現したフットボールは,強烈な個を生かすための組織,と言うよりは,ひとりひとりの集積でチームとしての機能性を引き出すための組織,という印象を与えます。確かに,かつてグランパスを率いたアーセンの雰囲気も漂いつつ,同時にイビツァさん風味もある。フットボール・フリークとして言えば,興味深い指揮官が来たな,と。


 ただ,チームが熟成途上(方向性が把握できていない)のタイミングで戦う相手としては,厄介極まりない。そして,この相手の仕掛けに無条件に乗らざるを得なかったのが,浦和です。


 ひとりひとりが,守備面であったり攻撃面に対する戦術イメージに,深い確信を持てない状態なのでしょう,迷いなく展開すると言うよりも,常にワンテンポ,あるいはさらに呼吸を整えながら仕掛けを組み立てようという印象でした。そのために,ファースト・ディフェンスによってボールを失いやすい状態に陥っていたように感じるのです。


 特に前半において顕著だったのは,前線と中盤,あるいは前線とアウトサイドとのイメージがまったくと言っていいほどに仕上がっていないこと,です。中盤やアウトサイドから見れば,前線の動き方を把握しきれていないから,積極的に縦の関係性を構築することができない。また,前線が大きく外に張り出してしまえば,結果としてアウトサイドは中途半端なオーバーラップしか仕掛けられないことになります。縦への鋭さであったり,仕掛けの加速を考えるのであれば,前線とアウトサイドとの関係性を整理,戦術的なピクチャーのすり合わせは最優先項目であるはずです。


 同時に,センターの関係性を整理しなければなりません。


 そもそも06〜07スペックを構成していたセンター・ラインは,今季には存在していません。守備ブロックだけを思えば確かに変更点は少ないですが,守備から攻撃に切り替わっていく,最も重要なタイミングでの連動性をどう取るか。この点が不明確なままでは,ビルドアップの初期段階で「迷い」を生じることになります。


 そうなると,仕掛けのリズムが微妙に,でも確実にズレていく。


 それだけではありません。前線と中盤との連動性が取れていないことを守備面から考えれば,相手の仕掛けを守備ブロック「だけ」で受け止めざるを得ない局面が圧倒的に増えてしまう,ということに行き着きます。ファースト・ディフェンスが機能しないために,06〜07シーズン型の守備応対をしていたのでは,アタッキング・サード,あるいはアタッキング・サード直前のエリアで相手を自由にさせてしまうし,相手の仕掛けを限定した形での守備応対が難しくなってしまいます。


 この悪循環に(一時的であるにせよ)クサビを打ち込んだのが,前半終了時点での戦術交代だったように見えるのです。この戦術交代が持つ意味をチーム全体が意識していけば,目指すべき方向性は見えてくるはずです。前半でのパッケージを熟成させるにしても,真正面から考えるのではなく,緩やかな移行過程を考えてもいいはずです。


 07スペックは,単純にひとを入れ替えただけで機能するものではない。


 08スペックを構築するのは,いまいる選手なのも間違いない。


 いまいる戦力を生かすために,どのような形が最適解なのか。チームに関わるすべての人間が,シッカリと意識すべきだと感じます。


 ・・・と書いておいて,戻ってみれば。


 各スポーツ・メディアをはじめ,こちらの記事のように一般紙でも,「解任」が報じられています。


 オフィシャルな形でのリリースはありませんが,恐らく配信記事なのでしょうからほぼ確定事項でありましょう。であるならば,出された結論に関して是非を論ずることもないと思います。


 それよりも,ちょっと思うことが。


 なぜ,ホルガーは今季,仕掛けなかったのでしょう。戦術的なチャレンジを仕掛けるならば,戦力が入れ替わった今季は好機だったのに,です。就任初年度である2007シーズンの方がまだ“チャレンジする姿勢”を見出すことができていたのではないでしょうか。個によって仕掛けるのではなく,組織を基盤とした個へとシフトさせる意図はあった。ただ,アジア・タイトル奪取を意識してでしょう,安定性を確保する引き換えに,戦術的な変化を保留させたように思っています。


 その,保留させた戦術的な変化を,なぜ戦力が入れ替わった今季に仕掛けようとしなかったのか,ということです。


 2007シーズンの形を踏襲するのか,それとも新たな形へと踏み込むのか。


 個人的には,新たな形へと踏み込んでほしいと思っていたのですが,軸足の置き方がシーズンが始まったあとでも定まらなかった。これでは,チーム・ビルディングという部分で大きな問題を抱えるのも道理でしょう。


 後任には,ギドの時代からチームを見てきているゲルトさんが昇格とのこと。「守るべきもの」を持ちながらチャレンジしていかなければならないのですから,難しいハンドリングなのは間違いないと思うのですが,戦力を把握しているという強みはあります。短期的な目標は間違いなく,攻撃,守備両面における組織性を整備することになるでしょうから,大幅な戦術的チャレンジを落とし込むだけの時間があるかどうか,難しいところはあります。ありますが,カップ戦を巧みに利用しながら,連携面の整備を長期的な戦術整備へと結び付けてもらいたいと思います。