東芝ブレイブルーパス対早稲田大学戦(ラグビー日本選手権2回戦)。

第1試合が終了するのが,およそ13:40前後。


 トップリーグですと,観客席に大幅な入れ替えがあったりするのですが,この日の秩父宮はそれほどの動きがなかったですね。それだけ,「第2試合」を狙って第1試合から秩父宮を訪れているひとが多かった,ということでしょう。


 で,秩父宮を「ホーム・スタジアム」のようにしたのが,早稲田であります。


 と言っても,スタンドから早稲田を応援するチャントが響くということではなくて,「期待感」のようなもの,とでも言うべきでしょうか。そんな雰囲気に包まれた秩父宮ですから,普段通りにゲームに入るというのは,ブレイブルーパスにとっても難しかったかも知れません。


 フットボール・シーズンも開幕直前,でありますが。積み残しておりました第45回(07〜08)ラグビー日本選手権(2回戦),その2であります。今季,トップリーグ(TL)4位と(恐らくは)不本意な成績に終わった東芝ブレイブルーパスと,大学選手権を制し,再び日本選手権へと駒を進めてきた早稲田大学の対戦であります。さて,先のエントリと同じく,先を見据えた形(ちょっとネガティブに言えば,「アラ探し型」)で書いていこうと思っております。


 まずは,ブレイブルーパスでありますが。


 ブレイブルーパスをもってしても,立ち上がりは雰囲気にやられたかな,と思います。
 早稲田に対する好意的なバイアスがかかったスタジアムでは,確かに浮足立つかも知れません。ただ,自分たちの主戦兵器でもあるドライビング・モールを自陣深い位置で仕掛けられ,しかもそれほど左右方向にモールを揺さぶることなく直線的に押し切られてしまう。やってはならない立ち上がりを,実際にやってしまったな,というのは確かにあります。
 また,ゲーム・マネージメントという部分で詰めの甘さを残したことも,課題と言えば課題でしょう。後半30分前後の時間帯,しっかりとしたリードを築いていたのは確かですが,それならばしっかりとゲームをクローズしていかなければならない。
 SFで対戦するサンゴリアスは,徹底的に対戦相手のスカウティングをする中からウィークポイントを絞り込み,徹底してそのポイントを突きに掛かるはずです。ゲーム・マネージメントで緩む時間帯が存在するとすれば,戦術交代を含めてラッシュを仕掛けてくることを想定しなければならない。メンタルでも,フィジカルでもきつくなってくる時間帯だからこそ,ディフェンス面でリズムを手放すことがあってはならないし,逆襲を受けないようなコントロールが必要ではないか,と感じます。
 

 そうは言っても。局面ベースで見ていけば,持っているポテンシャルや表現しているパフォーマンスには厳然たる差があるな,と感じます。前半に,ほぼゲームの方向性を決定付けると,後半はプライマリー・バランスを大きく崩さない程度に主力選手を下げ,スローダウンさせながら戦ってもいた。立ち上がりとクロージングの問題はあるにせよ,ほぼ想定通りの戦いだったのだろうと思います。


 対する早稲田でありますが。


 モチベーションが相当に高かっただろうことは,アウトサイドからも十分に受け取れました。ただ,強豪を相手に,「さらなる進化」の必要性であり,方向性を見出したのではないか,と思います。


 まず,通用した部分から。


 「モール」ですね。特に,立ち上がりの仕掛けは理想的と言うべきものでしょう。
 ブレイブルーパスのファウルから,五郎丸選手の正確なキックで地域を大きく獲得します。大まかに,ゴール・エリアまで5m前後のポイントからのマイボール・ラインアウト。ボールを保持すると,しっかりとモールを構築して,縦への圧力を強めていく。ドライブしながら相手を揺さぶる,などということなく,一気にブレイブルーパスの守備を断ち割り,トライを奪取する。モールを主戦兵器とする彼らの仕掛けが,間違いなくTL勢に対しても通用することを示した局面だった,と思います。
 また,“エリア・マネージメント”という部分で大きな意味を持つ,キック・プレーでしょうか。
 これは,FBである五郎丸選手のタレントによるところが大きいのですが,ボール・コントロールの巧みなキックによって,ブレイブルーパスのディフェンスを,「待ち構える」形から,「追い掛ける」形へと変えることができた。縦にシンプルな攻撃を仕掛けることで,終盤の逆襲が実った。この形を来季も継続できるかどうか,は正確性を持ったキッカーの存在が大きく関わるところですが,早稲田として意識しておいていい攻撃オプションだと感じます。


 ただ,ボールを展開しての攻撃では,さすがにTL勢との実力差を感じる部分があったように思われます。


 縦への加速をどのようにして仕掛けるか,という部分で,「個」に頼ってしまうと,ブレイブルーパスの鋭いディフェンスに潰される。攻撃がファースト・ディフェンスによって止められてしまうと,接点での強さでも差が生じているために,ボール・コントロールを失う局面もあるし,ボール・コントロールを失わなかったとしてもディフェンス体制を整えられてしまい,フェーズが相手に対する脅威に直結しなくなってしまう。
 この状態を打破するためには,個の持っているパフォーマンスを強化することももちろん重要です。長期的に考えれば,正規ルートはこちらでしょう。
 ただ同時に,ライナーズがヴェルブリッツに対して見せたように,組織的な仕掛けをオプションとして意識しておくことも重要な要素ではないか,と思うのです。連続性を強く意識するのみならず,戦術的な約束事に相手を引き寄せていくという色彩を持つ“ノーム・ラグビー”の要素をもうちょっと入れてもいいのではないかな,と思うのです。


 対抗戦レベルでは,まだ突出した存在である早稲田。ですが,前任指揮官である清宮さんが意識したのは,TLでありましょう。
 TL勢を相手に,勝負を挑む。挑むのみならず,結果を引き出す。
 そのためのアプローチ,という部分では,今季は正攻法の要素を強く感じることはできましたが,ブレイブルーパスの強みを消し去る,あるいは早稲田のリズムに引き込む,という戦術的な要素を強く感じることはなかったように思います。
 彼らがさらなる躍進を遂げるためには,戦術面での進化が必要とされるのではないか,と感じるのです。


 ポテンシャルを感じるのは間違いないところです。確かに存在している差を,どのようにして新たなチームが縮めてくるか。


 そういう部分を意識して,来季を見てみたいものです。