近鉄ライナーズ対トヨタ自動車ヴェルブリッツ戦(日本選手権2回戦)。

表面的には,いい試合のように映るかも知れません。


 確かに,攻撃面では「らしさ」を存分に表現できたゲームという評価が成立するでしょう。しかし,守備面では不安定さを見せていたとも言えるはずです。特に,ヴェルブリッツは不必要にゲームを難しくしてしまったと思うし,その要因が守備面にあると思っています。


 第45回(07〜08)ラグビー日本選手権(2回戦)であります。


 トップチャレンジ・シリーズを制し,2008〜09シーズンからのトップリーグ(TL)昇格を決めた古豪,近鉄ライナーズと,レギュラー・シーズンにおいて3位のポジションを得たトヨタ自動車ヴェルブリッツの対戦であります。ありますが,いささか時期を外したエントリでもありますので,ちょっと先を見据えた形にしていこうと思っております。


 そこで,SFを控えているヴェルブリッツのことから書いていこう,と思います。


 端的に指摘すれば,ディフェンス面での修正能力が大きな課題でしょう。ハーフタイムでのコーチング・スタッフからの修正ではなく,フィールドでの「自律的な修正」です。
 このゲームにおいては,ほぼ同じような形でディフェンス・ラインを破られ,縦への突破を許してしまっています。ラインを構築して,ラインに沿って単純にボールを展開する中から攻撃を展開するのではなく,ボール・キャリアーとパス・レシーバが縦の関係を作り出す中からシザースを仕掛け,ここで縦への加速を狙う,という攻撃の形をライナーズは持っていて,この形に対する有効なディフェンスが仕掛けられなかったわけです。
 それでも,前半立ち上がりの時間帯に縦を突破されただけならば,「相手の高いモチベーションを真正面から受け止めてしまった」というエクスキューズもあるかと思いますが,後半となっても同じような形から縦への突破を許してしまう。ボール・キャリアーに対するファースト・ディフェンスがそれほど厳しくなかった,という部分も関わってくるでしょうし,縦方向に連続する攻撃に対して,どのように数的優位を構築しながら守備応対するか,という意識がなかなか整理できなかった,という部分もあるかも知れません。知れないけれど,リーグ戦においては“Champions”という称号を射程に収めなければならないほどのポテンシャルを持ったクラブが,同じ仕掛けに対して,同じようなミスを繰り返してはならない。


 下部リーグからの昇格組が対戦相手であろうと,自分たちのすべきラグビーを100%表現する姿勢を貫くべきだろう,と思うのです。


 SFにおいて対戦するワイルドナイツや,その先において対戦する(かも知れない)サンゴリアス,あるいはブレイブルーパスに対して,このようなズレが繰り返されるのは致命傷になります。ヴェルブリッツに関しては,メンタルが大きくパフォーマンスへ影響する傾向を強く感じるだけに,強豪を相手にすれば自然とウィークポイントが修正されてしまう可能性もあるのですが,意識的にファースト・ディフェンスの鋭さなどを作り出していかないと,早い段階でリズムを掌握するのは難しいはずです。


 さて,対戦相手であるライナーズですが。


 まずはいいハーフ団を持っているな,と思いました。だからと言って,手放しで08〜09シーズンに対する期待を言うわけにもいかないかな,と。


 まずは,ゲームの入り方です。“チャレンジャー”なのですから,積極的に仕掛ける姿勢を押し出していかなければ,もったいない。もったいないのですが,実際にはヴェルブリッツの高い展開力に対して後手に回ってしまった。
 ひとりひとりの持っているパフォーマンスを冷静に見れば,ヴェルブリッツが有利です。しかも,トップレベルのリーグ戦を主戦場にしていますから,局面ベースでの展開力であったり,守備力は間違いなくライナーズを上回っている。
 ならば,彼らに対して,心理的な部分で後手に回ってはならないわけです。
 このゲームにあっては,立ち上がりのラッシュに成功したことで緩んだのか,ヴェルブリッツの圧力が弱まったタイミングを突いて,ライナーズは逆襲に成功します。ですが,立ち上がりの問題は,特に来季のレギュラー・シーズンを思えば見逃せるものではないはずです。相手に合わせるかのような入り方をリーグ戦でしてしまえば,シーズンを戦っていくために必要なリズムをつかめない可能性もあります。特に強豪クラブを相手にすれば,仕掛ける姿勢を立ち上がりから見せ付けないと,流れを相手に掌握されたまま,ディフェンスに対する負荷ばかりが高くなって,後半にチーム・ディフェンスが決壊する,などという最悪の展開もあり得ます。このゲームでも,後半立ち上がりから一時はリードを奪い返したものの,チームに掛かった負荷がディフェンス面に影響したのか,最終的には突き放されています。
 相手の攻撃に振り回される時間帯が長ければ,結果としてチーム自体に掛かる負荷は高くなり,後半での息切れという課題を抱えることになります。そんな事態を回避するためにも,入り方でリズムをつかんでおきたい。ライナーズにあっても,ファースト・ディフェンスで相手の攻撃リズムを寸断する意識を再確認しておく必要があるかな,と思っています。


 対して,リズムを掌握している時の仕掛けには,可能性を感じるものがあります。


 たとえば,後半立ち上がりの時間帯です。前半終了時,ライナーズは5点ビハインド(純然たる1トライ差)の状況でありました。ここからの仕掛けは,対戦相手であるヴェルブリッツを相手に,なかなかのものであったと思っています。仕掛けのプレッシャーがしっかりと掛っているからこそPKを獲得しているし,その後のトライにもつながっていく。
 ハーフ団がこのゲームで主戦兵器としていた“シザース”を含め,TL勢にもライナーズの仕掛けが通用したというのは,大きな収穫であり,08〜09シーズンに向けた自信になるものと思います。
 このゲームに関しては,「勝利を逃した」という部分を感じるところもあります。ですが,ライナーズにとって「通用した部分」と「修正をすべき部分」とが収穫として得られた,という部分で意味のあるゲームだったか,と思います。


 08〜09シーズンのライナーズ。少なくとも,侮れないのではないでしょうか。