意図的な「アンバランス」。

ラグビーフットボールは,エリア・マネージメントが鍵を握る競技です。


 同じ仕掛けでも,ゴール・ラインに近いエリアか,それとも大きく離れたエリアかによって,仕掛けが相手に与える脅威は大きく違ってくるはずです。となると,どのようにしてエリアを獲得するか,そして獲得したエリアから仕掛けていくか,が課題になるわけです。


 そんな観点で見ると,SANSPO.COM > サンスポさんの記事が紹介している,ちょっとアンバランスなスコッドは,結構意味がありそうです。ということで,楕円球の話であります。


 さて,最初の話の続きです。


 シークエンス・ラグビー(あるいは,戦術的な約束事を重視するノーム・ラグビー)という要素を考えると,ボールをつなぐ意識が重要であることは間違いないところです。ですが,“エリア・マネージメント”という部分を考えると,キックの重要性は無視できません。単純にタッチを割るようなキックではなく,相手ディフェンスラインの裏を狙うようなキックを仕掛け,同時に相手にボールをコントロールさせることが大事です。そして,ボール・ホルダーに対するプレッシャーを掛け与えることで,相手にキックさせる。ボール・コントロールを奪回するためです。となると,マイボール・ラインアウトとなり,仕掛けの起点が高くできる。


 本日の本題はここからでして。


 ラインアウトのときにスローワーからボールを受ける役割(ジャンパー)を果たすのが,セカンド・ローを構成するロック(LO)でありまして,このポジションが言ってみれば,リスタートからはじまる仕掛けの起点となるわけです。トップリーグでもそうですが,ここからの仕掛けでどれだけの脅威を作り出せるか,が得点力に直結していくことになります。このポジションを含めて,フロント・ローを構築するフッカー(HO),プロップ(PR)を多く選出しているわけです。これらのポジションをひとまとめに,「タイト5」という表現をするわけです。


 この「タイト5」を重視して,今回のスコッドが組まれているのです。


 BKは22人が選出され,FWは30人。スコッド・リスト(JRFUオフィシャル)を見ますと,この30人のうち,タイト5だけで20人もの選手が選ばれているわけです。


 この記事において,

 「国際舞台では、運動量や密集戦でも重要な役割がある」


というJKのコメントが紹介されていますが,これはトップリーグ(TL)を見ていても,ある程度理解できるところではないか,と。


 たとえば,モールを基盤とした仕掛けであります。ボール・キャリアーを中心として,3人以上の選手が組み合った状態ですから,ちょっと見ると体格差が反映しているように思えます。ですが,モールをしっかりとバインドさせ,なおかつコントロールするという部分では戦術的な成熟度が求められます。
その代わり,モールが武器として機能するようになると,なかなか止められなくなる。恐らく,そんな部分での熟成を狙うのでしょうし,FWによる積極的な攻撃参加を促すことによって縦方向への破壊力を高め,相手ディフェンスへのプレッシャーを高めると同時にディフェンス・ラインを引きつける。フィニッシャーとして,あるいはフィニッシャーを効果的に突破させるための仕掛けを担う存在として,タイト5を集中して強化するという狙いなのでしょう。代表スケジュール(JRFUオフィシャル)にも,タイト5だけを対象とする合宿が組まれています。


 この合宿を経て,誰が残るか。そういう部分にも興味はありますが,それ以上にジャパンとしてどのような仕掛けを意識していくのか,その一端がメンバー発表時には見える,かも知れません。