ECAと実行委員会。

ポリティクス,というと拒否反応を示すひともいるかも知れません。


 ですが,避けて通ってばかりもいられません。利害調整,というのはポリティクスが果たすべき大きな役割であり,大事な要素でもあるからです。


 たとえば,しっかりとした論拠に基づいて主張をしたいとします。そのときに,主張をしかるべきところへ届けるための「正規ルート」が用意されていなければ,どんな主張をしたとしても「裏読み」されなければなりません。さらに,「結果として」主張通りの結果が導かれたとしても,その過程においてまったく異なる判断があったとしても,「声を上げたこと」を理由とされかねない。これでは主張をする側,主張をされる側双方にとって,ハッピーなことだとは思えません。


 ならば,正規ルートで調整なり交渉ができる形を作らねばならないはずです。この「正規ルート」の枠組み,ちょっと考えてみたいと思います。


 ということで,UEFA、G−14に別れを告げECA設立(スポーツナビ)という,ちょっと古い記事を引っ張り出してみます。


 「チューリッヒ協定。」というエントリでも取り上げているのですが,かつてビッグクラブの利害を代表する組織であったG14が,FIFA,UEFAと合意文書を取り交わし,G14に代わる組織としてヨーロッパクラブ協会(ECA)を設立する,という話であります。


 この組織,UEFAを構成する各FA,そのリーグ戦を戦うクラブで構成され,各国におけるメンバー枠はUEFAランキングによって増減する,ということのようです。


 この記事で興味深いのは,「ECA委員会」という枠組みです。ちょっと引用してみますと,

 ECA委員会を構成するのは11のメンバーと、委員会がUEFAのプロサッカー戦略会議のために選出した4人の代表者。UEFAクラブ・コンペティション委員会のメンバーの半分もECAから選出される。


とのこと。この委員会によって,クラブとUEFAの利害が実質的に調整される,ということになりそうです。


 さて,この話を前提に本題であります。


 果たして,ECA(かつての姿を思えば,G14)のような組織を設立する必要性があるのかどうか。かりにACLの権威が飛躍的に高まり,国内リーグ戦とACLを同時並行的に戦う必要性が出てくるクラブが多くなったり,シーズン立ち上がりにACL予選を戦わねばならないクラブが出てくるようになると,AFCに対してスケジュール調整をしていくための「正規ルート」として,ECAに相当する組織を構築する必要性も出てくるかも知れません。


 将来的な課題として,ECAに相当する組織を意識しておくことは有益だと思います。ただ,額面通りにECAと同様の機能を持った組織が現段階において必要か,と言えば,まだその段階にまでは行き着いていないということになるでしょう。


 とは言え,国内的には交渉のための「正規ルート」が求められているのも確かだろう,と思います。国内限定の,ECA,そしてECA委員会は必要であろう,と思うのです。そのときに,しっかりと機能すべきはJリーグ,ということになるのではないでしょうか。


 Jリーグのオフィシャル・サイトを見るとJリーグに関する規約,規程に関するPDFファイルで用意されています。規約を読んでみますと,Jリーグの意思決定機関として最上位に位置しているのは,理事会であります。その下部組織として,各クラブから代表が集まる「実行委員会」があります。ディビジョン1,ディビジョン2にそれぞれ実行委員会が置かれる,とのことであります。


 この実行委員会に関する規程を読んでみると,もっと活用の余地がある組織ではないか,と感じます。具体的に言うならば,各クラブの意見を集約し,JFAやリーグに対してクラブの主張をしていくための調整の場,少なくとも,枠組みの基盤として機能させられる可能性があるのではないか,と思うのです。


 大きく取り上げられている「東アジア選手権」ですが,このスケジュールによって影響を受けるクラブもありますし,逆に影響を最小限(あるいはゼロ)に抑えられているクラブもあるかも知れません。影響を受けるクラブである浦和が,その影響を少なくするためにクラブ単体として主張をし,その主張をJFAサイドが(結果として)受け入れた形です。実際には,高原選手のコンディションが上がりきっていない(試合勘を取り戻せていない)ことなど,複数の要因が絡んでいるはずですから,浦和の主張が直線的に選手選考に影響している,と結論づけることは難しいと思います。


 むしろ,最も大きな影響を受けると思われるクラブが,対JFAという部分において静かであるということに,個人的には懸念を感じます。正当な主張をするための枠組みがないことを理由に,「静観せざるを得ない」のだとすれば,しっかりとした主張をできないことの方を問題視するべきではないか,と思うのです。このときに,リーグ全体の利益として,JFAとの関係においてスケジュール調整などを促すべく,理事会の下部に位置する実行委員会がある程度の意思表示をできるならば,と思うのです。あるいは,上位機関である理事会メンバーにも参加を求め,またJFAサイドからも担当者の出席を求め,また実行委員会構成メンバーの持ち回りによって数名のクラブ代表が新たな組織を構成し,ECA委員会のような機能を持つ組織が調整基盤となれば,と思うわけです。


 各クラブの意思がJリーグの枠組みの中で集約され,対JFAとの関係でしっかりとした意思表示ができるようにする。このような枠組みは,「対立」だけを前提とした関係ではなく,協力を求めるときの正規ルートとしても機能するはずです。


 2008シーズン時点で言えば,リーグにおけるパワー・バランスが発言力と関連していると取られるのも仕方ないことです。ですが長期的に,このパワー・バランスが維持される保証はどこにもありません。また,パワー・バランスから微妙に外れたクラブであっても,対JFA(代表チーム)という関係で影響を受けない,などということはありません。この2つのバランスを取っていく,という方向性を考えてもいい。


 代表チームの基盤は,間違いなくリーグ戦に置かれているはずです。そのリーグ戦を構成するクラブが,何らかの主張があるときにしっかりとした主張をしていける枠組みがなければ,代表チームがリーグ戦の権威を背負えなくなってしまう。そんな不幸な事態を回避するためにも,Jリーグサイドができることは多いと思うのです。