NECグリーンロケッツ対三洋電機ワイルドナイツ戦(TL最終節)。

「局地的なエリア・マネージメント」を強く意識した守備。


 その守備に対して,有効な揺さぶりを掛けられなかった時点で,グリーンロケッツは勝負権を失ってしまった,ということになるでしょうか。


 ラグビートップリーグ(TL)最終節であります。


 本来ならば,3日に開催されるはずだったのですが,降雪によって延期されます。結果,9日ということになったのですが,この日の予報も雪。いささか心配になったのですが,確かに寒いものの,秩父宮には細かい雪が時間帯限定でちらつく程度でありました。


 さて,このゲームには2つの要素がかかっていました。


 ひとつは,グリーンロケッツマイクロソフトカップ進出であり,もうひとつはワイルドナイツのシーズン無敗であります。
 モチベーションとしては,恐らくグリーンロケッツの方が高く,そのモチベーションを真正面から受け止めてしまえば,さすがにワイルドナイツとしても難しいゲームを戦わざるを得ないのではないか,と思っていたのですが,ワイルドナイツはその予想を軽く飛び越えてきた。
 相手のモチベーションを受動的に「受ける」のではなく,「受けて立って」,しかも跳ね返してみせた。結果としては,ワイルドナイツが自分たちのラグビーを存分に表現してみせたゲームということになると思います。


 まずは,NECグリーンロケッツ・サイドからゲームを見てみます。


 確かに,積極的に仕掛けていたのはグリーンロケッツ,と見ることができるかとは思います。
 このゲーム,どうしても勝ち点を奪う必要があります。
 ただ,ボーナス・ポイントを含めた勝ち点奪取はあくまでも,ライバルと並ぶことを意味するだけにとどまるのです。PSGに進出するためには,得失点差という部分でも戦わなければならない。トライを奪うと同時に,相手の仕掛けを抑え込む。非常に難しい課題を突き付けられていたということになります。
 そのためか,積極的に仕掛けていく,そしてトライを狙う姿勢は前面にあったように受け取れますが,反面で仕掛けが単調になってしまったという部分が感じられました。
 「展開」という要素だけが突出してしまって,エリアを奪いに行くという形がなかなか作れない。そのために,ボールの展開が相手守備ラインに対する脅威になっていかないし,相手守備ラインを断ち割ることができずに跳ね返される時間帯が長かった。


 恐らく,トライ奪取という部分に意識が相当強く傾いていたのではないでしょうか。


 相手のエリアを奪いながら,仕掛けていくという形になかなか持ち込めなかった。でありますれば,表面的には仕掛けているのだけれど,実質的にはワイルドナイツに巧みにゲームをコントロールされてしまったように見えるのです。


 とは言え,グリーンロケッツも時間帯限定とはいえ,ワイルドナイツの守備網を断ち割っています。


 後半立ち上がり,自陣深いところから,縦にシンプルな仕掛けをきっかけにトライを奪い,ゲームをイーブンへと引き戻します。アソシエーション・フットボールのような表現をすれば,フルコート・カウンターのような形です。
 ワイルドナイツがトライ奪取のためにラッシュを掛けていた時間帯で,チームは前掛かりの形になっています。そんなタイミングにボール・コントロールを回復すると,キックによって大きく地域を奪回し,相手ディフェンスが「待ち受ける」形ではなく,「追い掛ける」形に持ち込む。そのために,前半は安定しきっていたディフェンスが,グリーンロケッツの仕掛けに対して後手を踏み続けたわけです。
 ではありますが,ゲーム全体として考えるならば,「縦」での力強さであったり,速さを表現できたのがこの時間帯だけに抑え込まれた。このような要素を思えば,ワイルドナイツとの差があるように思います。


 対して,シーズン無敗を達成したワイルドナイツであります。


 アメリカン・フットボールほど明確ではないにせよ,「地域を奪う」意識がラグビーには求められます。本来的な“エリア・マネージメント”は,「地域を奪う」ことであります。
 地域を奪うという部分でも,確かにワイルドナイツは戦術的に徹底されている印象を受けました。受けましたが,そうではなくて,すごく小さなエリアでのエリア・マネージメントもワイルドナイツは徹底していたように感じられます。


 ワイルドナイツも,基本的にはフラット・ディフェンスを採用しています。


 ボール・キャリアーに対して,最も近い位置にいる選手がタックルに入るのですが,ファースト・ディフェンスの段階でかなり厳しくタックルに入っているために,しっかりと相手の仕掛けを止めることができる。このとき,タックルに入った選手の近くにいる選手は,ボール・キャリアーとの距離を微妙に詰めています。数歩,という程度の微妙な距離ですが,この距離をコントロールし続けることでボールに対する反応がチームとして速くなっているように感じます。
 結果としてサポートに入っていくタイミングが早まり,それほどの数的優位を構築せずにボール・コントロールを取り戻すことができる局面が多いわけです。いわゆる,「ジャッカル」に持ち込める局面が多いわけです。そのために,仕掛けに掛けられる人数を削ることもないし,守備面で最大限の効果を引き出すことができる,と。


 ワイルドナイツは,確かに攻撃面でも安定していますが,それ以上に守備面での安定性が印象に残ります。そこから,ひとりひとりのポテンシャルを生かした攻撃を展開していく。


 トニー・ブラウンという才能あふれる司令塔がボールを巧みにコントロールしていることも大きな要素ですが,パスを受ける選手も相手守備ラインにクラックを作り出す,あるいは生じているクラックを見逃すことなく走り込んでいける,という形も見逃すことができません。
 「野武士軍団」という愛称が示すように,激しい部分を受け継いできたクラブですが,その激しさがいままでは必ずしも試合結果には反映できませんでした。その激しさを,フィールドにしっかりと伝えるための戦術的な要素が熟成を受けたように感じます。
 そのためか,ワイルドナイツの仕掛けはショート・カウンターのような鋭さと,速さを感じさせます。その背後には,しっかりとした戦術的ピクチャーの存在も意識させる。確かに,シーズン無敗を達成するだけのことはある,と思いますね。