対タイ戦(アジア3次予選)。

ファイナル・スコアだけから思えば,すこぶる順当。


 ですが,決してスムーズにこのスコアへと持ち込めているわけではない。ないがゆえに,意味のあるゲームではなかったか,と思います。


 ということで,いささか遅筆にタイ戦であります。ちょっとタイミングを外してもおりますれば,ちょっと軽めに。


 ドイツか,それともオランダか,と思うような天候でありました。


 フラッドライトに照らされるのは,雨粒ではなくて雪。決して良いコンディションとは言えない状況での予選初戦であります。


 さて。前半にあっても,比較的表現すべき仕掛けの形は表現できていたように思います。思いますが,仕掛けをフィニッシュにつなげるという部分で,相手の守備ラインを揺さぶる動きをなかなか織り込めないために,フィニッシュ直前のタイミング,あるいはそれよりもちょっと前の段階で仕掛けを抑え込まれる,という形が多かったように思うのです。


 ラグビーフットボール的なことを言えば,相手が「決壊」するのは時間の問題という印象を受けてはいたのですが,アクシデンタルな失点を喫するようなことがあれば,急激に試合が難しくなりかねない。


 流れをつかみかけているという印象はあるけれど,決定的に掌握していないから,相手に流れが振れる可能性もある。ちょっと微妙な空気を打ち破ったのは,FKからの先制点奪取でありました。このFKによって,リズムを引き寄せたかのように見えたのですが,直後にエアポケットを作り出してしまう。ミドルレンジからのショットが的確にゴールマウスを捉え,試合をイーブンへと引き戻すわけです。


 ハーフタイムを挟んで,後半であります。


 中盤での流動性,と言いますか,縦方向への積極的な飛び出し(ポジション・チェンジ)が大きな鍵を握ることになります。左サイドを深い位置まで突破すると,ゴール・ラインギリギリの位置を切り込んでいく。そこで繰り出したパスは相手守備網にかかるのだけれど,リフレクションをコントロール,そのコントロールしたボールを押し込んで追加点を奪取する。相手をショートハンドに追い込み,FKからヘッダーでさらに追加点を挙げ,アディショナル・タイムには戦術交代によって投入されたFWが,「らしさ」を存分に生かしたポジショニングからヘッダーを沈める。


 とまあ,後半はある意味,ラグビー的に実力を反映させることのできたゲームだったように感じます。


 やはり,課題となるのは前半でしょう。どのようにして,フィニッシュにつながる仕掛けを構築するか,であります。


 この試合では,想定したよりも流動性が高くなかったように思います。高原選手が中盤へと下がりながらボールを引き出し,同時に中盤が飛び出していくように促す形もありましたが,絶対数として多かったわけではない。このような形を,必要とあらば積極的に作り出すことが求められるように感じます。


 もうひとつ。失点の原因となったポジショニング,です。


 実質的にはディフェンシブ・ハーフを流動的に組み替えるシステム,と理解すべきところでしょうが,実際にディフェンシブ・ハーフがひとりだけという状況を作ってしまった時間帯が,失点直前ではなかったかな,と。ディフェンシブ・ハーフに対する負荷をできるだけ小さくすることが前提ですが,最悪の場合にSBが絞るのか,それともCBが応対に入るのか,などの戦術的なイメージを確認しておくべき部分ではないか,と思います。


 ・・・などと書いておりますと。


 坪井、代表引退!日本最速ストッパー28歳の決断(スポーツ報知)という記事でございます。


 あくまで,ひとつのスポーツ・メディアが報じていることですから,額面通りに受け取るべきではないのかも知れません。ですが,まったくあり得ない話とも思えない。東アジア選手権についてのJFAのリリースも,何かを示唆しているように思えなくもないわけです。


 そこでちょっと,こちらに関しても書いておくことにします。


 振り返ってみるに,代表でのゲームで負傷したことが,影を微妙に落としたように思えます。


 報知さんも触れている,2004シーズンでのことです。確か,このときもかなりタイトな日程だったと記憶しています。


 坪井選手の武器は,スピードという部分が確かにあります。その武器を支える要素が,この負傷によってどこか,微妙に影響を受けたように感じるのです。


 2006年・ドイツ大会で,坪井選手を襲った突然の痙攣。


 このときは,暑熱対策,脱水対策がうまくいかなかったという要素もあったのでしょうが,どこかで微妙に違う筋力バランスをカヴァしながらギリギリの守備応対をしていた,という部分も作用したようにも(今にして,ですが)感じるところがあります。


 前任指揮官もどこかで100%のパフォーマンスを取り戻し切れていない,という見方をしていたのかも知れませんし,何より坪井選手自身が納得できないままに代表とクラブを往復していたのでしょう。


 昨季,リーグ戦後半に入ると,どこかに精彩を欠いた印象を持ちもしました。確かに過密日程による疲労,という部分もあったに違いありません。それ以上に,坪井選手自身が「その時点での」ベスト・パフォーマンスを表現し切れていないような印象もあった。スタイルに迷いを生じている,というよりも,100%フィットという状態へと引き上げきれないままに疲労でパフォーマンスを落としていってしまったように思えるのです。


 トップ・パフォーマンスを取り戻すために,あるいは今までとは違った形でのパフォーマンスを表現するために,軸足であるクラブに集中する。そんな意識なのかな,と。


 昨季,ゲームの中で積極的に仕掛けに関わっていこうという姿勢は,坪井選手が前任指揮官にポジティブな刺激を受けた結果だろう,と思います。その刺激は,今季の浦和にとって意味のあるものだと思います。


 2008スペックの浦和は,恐らくそれまでのパッケージと,もうひとつのパッケージを使い分けていくのではないか。仕掛けを意識したパッケージにあって,最終ラインからの攻撃参加は大きなアクセントになるはず。


 ともかくも。坪井選手が納得できるパフォーマンスを中野田のピッチで,真紅のユニフォームとともに存分に見せてほしい。そう思います。