ラグビー大学選手権(2007〜08・#2)。

対抗戦がトーナメントになってしまったような感じもありますね。


 関西勢で唯一,トーナメントに残っていた京都産業大学も年を越せませんでしたし,QFの段階で対抗戦Aグループを戦う大学同士の対戦が実現するなど,東高西低どころか対抗戦による大学選手権,という印象があります。


 確かにそう思うのですが。


 ただ同時に,個人的に思うのは,「早稲田効果」がいよいよ対抗戦Aグループに波及しはじめたかな,ということであります。ということで,明大、9大会ぶり準決勝へ=早大も順当、対抗戦が4強独占−全国大学ラグビー(スポーツナビ)という記事をもとに,楕円球方面の話などを。


 ちょっと,振り返ってみますに。


 清宮さんが早稲田でやったことをごく大ざっぱに言うならば,「伝統」と「トレンド」の融合ではなかったかと思います。トップリーグ勢を筆頭とする有力クラブ・チームは,貪欲にラグビー・ネイションズにおけるラグビー理論を吸収し,戦術的な要素に取り込んでいます。もともとBKのスピードという特徴を持っていたブレイブルーパスはスタンディング・ラグビーからシークエンス・ラグビーへと進化し,戦術的な理解度を基盤として勝負を仕掛けようとするサンゴリアスは,ノーム・ラグビーを志向する,というように。


 ですが,大学ラグビーの世界では,積極的にラグビー・ネイションズの戦術理論を落とし込んでいるようには感じられませんでした。


 各チームには,歴史が培った特徴が存在しています。たとえば,FWのパワーであったり,BKの展開力であったり。ただ,この伝統的な要素が戦術的な要素として機能しきれなかったように思うのです。この伝統的な要素と,戦術理論とのバランスを調整したのが,清宮さんの率いる早稲田ではなかったか,と。


 もともとBKには強みを持っていました。トップリーグにあてはめれば,ブレイブルーパス的な基盤を持っています。となれば,戦術的な要素としてスタンディング・ラグビーやシークエンス・ラグビーを受け入れる素地があるとも言えるわけです。


 ラグビーフットボールは,規則改正が比較的多い競技です。その規則改正は,仕掛けの形に影響を与えます。となれば,最新の戦術理論を常に意識していないと,ラグビー・スタイルが遅れていってしまうことになる。清宮さんは,早稲田のラグビーをアップデートし続けるための手法を持ち込んだ,という印象を持っています。そして,このことに対抗戦Aグループの有力校も気付いたのではないでしょうか。


 自分たちの強みをさらに生かすために,どのような戦術的要素が不足していて,どういう強化ポイントを必要とするのか。そのときに,ラグビー・ネイションズにおける戦術理論を活用して,もともと持っている“スタイル”を現代的なものと変化させていく。たとえば。慶應義塾の監督として,林雅人さんが就任されていますが,林さんはサンゴリアスコーチング・コーディネーターを務めていました。清宮さんのチーム・ビルディングやチーム・マネージメントをごく近い位置で見ているひとです。ならば,その経験が慶應に落とし込まれているとしても不思議はありません。


 フィジカル・ストレングスなどの側面で,確かにTL勢と同列に考えられない部分はあります。ありますが,4年間という年限はあるにせよ,かなり継続的な強化が可能な環境にあるはずですし,最新理論を積極的に取り込んでいくという姿勢を失わない限り,TL勢を脅かす存在であり続けることは可能でもあるはずです。


 対抗戦で,突出した印象を与えた早稲田の意識に,ライバル校が追いついてきた。その副次効果として,大学選手権で4強を独占するような形となったのだとすれば,清宮さんの蒔いた種は早稲田という枠を越えて,大学ラグビーに影響を与えるものとなりつつあるのかも知れない,と感じます。