普及活動という基盤。

普及が最も大きな基盤。強化は頂点。


 ファースト・チームを頂点とするフットボール・クラブのピラミッドを表現すれば,こんな感じでしょうね。


 普及活動は最も裾野の広い領域です。もちろん,将来的な可能性を持った選手を発掘するという意味合いも持っていますが,それ以上にフットボールという競技に親しんでくれるひとを増やし,育てることも大きな意味を持っています。


 もちろん,「利」という部分にも意味を持ちます。スクールでフットボールの面白さを感じただろう子どもたちは,恐らくこのフットボール・クラブに対して好意的な印象を持つはずです。フットボール・ビジネスと直線的に結び付くわけではないにせよ,間違いなく何らかのポジティブな影響は与えるはずです。


 さて。ひさびさに頂戴したコメントをもとにしたエントリです。浦和を追いかけているひとでないと,“グラスルート”と言われても確かにピンとはこないでしょうね。失礼を。では,ちょっと補足してみます。


 前任である犬飼基昭さんがトップになってからの大きな変化,というべきでしょうか。


 恐らく,浦和を追いかけているひとでないかぎり,犬飼さんの成果は「ファースト・チームの積極的な強化」以外には思いつかないかも知れません。ですが,犬飼さんが着手したことはほかにもありました。フットボール・クラブは単純に営利だけを意識していればいいわけではなく,地域へのコミットメントを強く意識していかなければならない,ということをもうひとつの柱にしていたのです。


 ひとつの形になったのが,荒川河川敷のレッズランドです。総合型スポーツクラブへの大きな足がかりです。そしてもうひとつが,普及活動を展開する専従の組織,ハートフルクラブ(浦和オフィシャル)であります。彼らは要望に応じてフットボール・クリニックの出前をしたり,さいたま市内,あるいは埼玉県内でフットボール・スクールを実施しています。


 このハートフルクラブによる活動を,海外にも持ち出しているわけです。ここからが本題,であります。


 ひとつの具体例でありますが,こちらのニュースリリース(浦和オフィシャル)のように,ACLグループリーグが戦われた土地で同じようにハートフルクラブが地元の子どもたちに向けてスクール活動をしているわけです。加えて,パートナーでもあるタイ国際航空などの協力を得て,タイでのハートフルサッカーを実施するなど,海外での普及活動は比較的活発なのです。


 ファースト・チームが海外のスタジアムで強さを見せ付け,そのスタジアムに足を運んだひとたちに印象を残すことも大きな意味があります。と同時に,浦和というクラブそのものに対して好意的な感情を持ってもらうこともまた,大事な意味を持つと思うのです。積極的に海外においても普及活動を展開していく。その中で,浦和という名前を浸透させ,長期的には商品価値を引き上げていこうという意図を持っているのではないか,と思うわけです。


 鹿島やG大阪が,グループリーグの戦われる土地でどのようなアプローチをするか,それは未知数です。ともすれば,「戦いに行くのに,普及活動を展開する余裕などない」ということになるかも知れません。ただ,育成に定評のあるガンバならば,面白い活動が展開できるはずだろう,とも期待しています。そして結果として,Jへの関心が高まれば放映権などのフットボール・ビジネスへと結び付く,かも知れません。


 確かに,Jというビジネスを拡大していくためには,アジア地域への放映権ビジネスというのも大事な要素になっていくでしょう。サッカー批評に寄稿された西部さんの指摘もこの点では納得です。納得なのですが,単にコンテンツとして感じてほしくはないのです。Jを構成するクラブを,身近に感じてくれるひとがアジア地域で多くなってほしい,と思うのです。


 それだけにちょっと遠回り,そして理想論的かも知れませんが,単なる「市場」としてアジアを見るよりも,地道な普及活動を基盤として,そこからビジネスを見据えることに意味があるように思えるのです。