カペッロをめぐる賛否両論。

ちょっと冷静に,状況を見てみましょうか。


 スティーブ・マクラーレンは,ある程度イングランドの将来像を描いていました。ただ,その将来像の描き方がいささか大ざっぱでもあった。代表監督というのは,チームが急激にパフォーマンスを落とすことなく,緩やかに,そして確実に新陳代謝(世代交代)を促しながら結果を引き出していく,という難しいハンドリングを要求されると思うのですが,マクラーレンさんは結果という部分でバランスを失うことになってしまった。


 そうなると,メディアはマクラーレンさんに対してシビアな見方をするし,彼が推し進めてきた路線を否定してでも結果を求めようとする。ここで動じなければ,あるいは・・・,と思うところもあったのですが,ギリギリのところでマクラーレンさんは自分の信念を曲げてしまいます。それでも結果は出なかった。


 欧州選手権への切符をつかみ取れなかったわけですね。


 となれば,チームをゼロ・ベースから再構築するという意識でもよさそうですし,欧州選手権の轍を,2010年に向けた予選で踏むわけにはいきません。となれば,「結果」をシッカリと引き出せる指揮官が必要となる,という思考過程に行き着くでしょう。ジョゼ・モウリーニョにしても,理想主義的な部分を持っているようには思うけれど,すごく徹底したリアリストですし,そんなリアリストをFAは望んでいた。


 と考えてくれば,ファビオ・カペッロにチームを預けるという判断も,確かに理が通っているな,と。


 ということで,今回はちょっと「イングランド蹴球事情」でありまして,カペッロのイングランド監督就任に賛否両論(スポーツナビ)という記事をもとにしていきます。


 さて,タイトルにも掲げましたが,「賛否両論」が渦巻く御仁だろうな,と思いますね。


 まずは好意的な見方をしてみますと。


 彼が率いてきたクラブでは,間違いなくタイトルを奪取しています。ACミランではスクデット,そしてビッグイヤーを奪取していますし,レアル・マドリーでもタイトルを奪い取っています。また,ASローマにおいてもスクデットを掲げています(ユーヴェでの扱いは,いささか微妙にしてセンシティブなものがありますが)。「結果」という要素を強く意識するのであれば,カペッロさんは最適任,という見方もできましょう。また,どうしてもチームの基盤構築が難しい部分がある代表チームにあって,組織性の高いフットボールを意識し,ディシプリンを明確に要求するというカペッロさんのスタイルが,イングランドが志向すべき戦い方をハッキリさせるという方向に作用するのではないか,という見方もできるかな,と。


 ただ,同時に否定的な意見が出てくるひとでもありまして。


 ごく大ざっぱな言い方をすれば,「味方」を上手につくれないような印象を持つのです。


 レアル・マドリーでのキャリアは最たるものでしょう。「結果」だけを評価基準とするならば,カペッロさんは決して間違った選択などではありません。ですが,彼のフットボール・スタイルはすごく現実主義的です。また,エレガントな攻撃という方向性ではなくて,すこぶる機能的な攻撃という方向性であります。アトラクティブというわけではない。そのために,レアルを支えるひとたちの支持を取り付けることができず,彼らのプレッシャーを受けたクラブサイドは,契約の非更新を2度にわたって決定するわけです。


 彼の志向するスタイルが,イングリッシュにどう受け止められるか,という懸念があるにはある,と思うわけです。


 とは言いつつ。


 このスポナビの記事で紹介されている,

 「イングランド代表の選手たちは周囲から与えられた名声を信じているのだと思う。わが国の人々は代表に対し、現在の実際の能力をはるかに上回る期待を抱いている。スーパースターたちをつかまえ、『お前らはイングランドのためにプレーしているんだ。とっとと出ていって仕事をしろ』と言ってやるべきなんだ。誰かがそうする勇気を持っていることを私は祈っており、カペッロにはその勇気があると思っている」


というテリー・ブッチャーさんのコメントだったり,マーク・ハートレーさんの

 「カペッロはいい加減なやつは相手にしない。彼の指揮下では、きちんと仕事をしないやつは外されるだろう。彼は単に戦術的に優れているだけではなく、良い心理学者でもあるんだ」


とのコメントがカペッロさん就任の持つ意味を端的に示しているように思うのです。


 確かに,理想を言えばイングリッシュがチームに確固たる基盤を構築すべきです。しかし,プレミアシップ・ポイントを争っているクラブを率いる指揮官は,イングリッシュ以外の国籍なのです。それでも,リソースの少ない中からトップ・フライトを達成した指揮官などもいます。ただ残念ながら,「誰もが」納得してくれる指揮官,というわけにはいかない。ならば,国籍にこだわることなしにイングランド代表を“right track”に乗せられるひとを,という考え方でもおかしくない。


 実際にチームが起動してから,どれだけ早い段階で結果を引き出し,雑音を抑え込むことができるか。仕事をしやすくするためにも,「結果」は大きな意味を持つように思います。