対A.C.Milan戦(FCWC・M5)。

日本代表が,ワールドカップ本戦で突き付けられる課題。


 あるいは,フットボール・ネイションズとの距離感とでも表現しようか。


 そう簡単に詰めていくことのできない,距離感。ただその距離感も,実際に戦うことで,そして仕掛けていく姿勢を持つことで見えてくる。


 いつも通り,1日遅れでのFCWC(M5)・準決勝であります。


 国内リーグ戦だけを戦っていては,実感することが恐らくは難しい課題なのでしょうが,チームとして仕掛けていくときの「速度」が遅いような印象がありました。ごく大ざっぱに言えば,相手の攻撃を受け止め,守備から攻撃へとチームの意識が切り替わるときの時間差を相手に狙われることで,意図する攻撃がなかなか仕掛けられないという形になったのではないか,と思うのです。


 たとえば,「仕掛け」の意識付けがどれだけチームに浸透しているかという要素もかなり厳しく問われたように感じます。ボールを奪取してから,攻撃に移り変わるときにどれだけ多くの選手が同じ戦術イメージを描き,ボール・ホルダーがパスを繰り出しやすい位置へと確信を持ってフリーランを仕掛けられるか,という部分で確かに差があるな,という印象を持ったわけです。


 ボールをコントロールしてから,パスを繰り出すまでの微妙なディレイ。


 ボールをちょっとだけホールドすることによって周囲の動き出しを促し,パスを繰り出すための選択肢を広げていくわけですが,そのディレイを相手は見逃すことなく,プレッシャーを掛けてくる。また,パスを受ける側の選手がディレイを待って動き出しているかのように感じられるために,相手守備ブロックとしてはパス・コースやパス・レシーバを容易に絞り込めることになるために,かなり余裕を持った守備応対が可能になる。恐らく,国内リーグ戦では許容される時間差が,フットボール・ネイションズを主戦場とするクラブを相手にすると許されなくなる。ごくシンプルなカウンター・アタックからチャンスを生み出しはしたけれど,積極的に仕掛けを組み立てていこうという時間帯には相手のプレッシャーや堅いディフェンス・ブロックに跳ね返される局面が多かった,というのはプレースピードや戦術的なイメージを即座に描き出す,という部分での(かなりハイレベルな)課題を提示された,という印象を持ちます。


 また,このゲームにおいては「縦」方向への流動性が抑え込まれました。


 チーム・バランスを守備的な方向へとより強く傾けざるを得なかったためか,最終ラインとディフェンシブ・ハーフで構成される守備ブロックをなかなか積極的に壊すことができなかった。守備応対において数的優位を構築しなければ,ボール奪取が難しい局面が多く,そのために攻撃へと切り替わるタイミングで仕掛けにかかわることのできる選手が少なくなってしまう。縦方向へのポジション・チェンジが積極的に仕掛けられるならば,相手守備ブロックが想定している守備応対に意外性を持ち込むこともできるのですが,なかなかそういう形には持ち込めなかった。


 この部分で,少なからず「変化」を感じることのできたのは暢久選手の投入直後でありました。


 それまで攻撃をオーガナイズしていた長谷部選手がポジションをディフェンシブ・ハーフの位置にまで下げ,暢久選手が攻撃をオーガナイズするポジションでプレーする。国内リーグ戦では,右アウトサイドで時に「淡泊」なようにも感じられるプレーをする選手ですが,そのシンプルさが実際には相手のプレッシャーを回避しながら同時に攻撃を組み立てる要素でもあった。また,戦術交代直後の時間帯,相手守備ブロックが混乱しただろうことも作用したのかも知れませんが,縦方向での流動性を結果として生み出すことができ,仕掛けをフィニッシュにまで持ち込むこともできたわけです。


 ・・・確かに,最小得点差ではあるけれど,その差を生み出した要素を思えば「僅差」という言葉を簡単に使えるものでもないように感じられます。


 ですが,ちょっと気の早い話ですが,2008シーズン,あるいはそれ以降の浦和を思うときに,かなりの転換点として意識されるゲームではないか,と思うのです。横浜国際のピッチに立った,ひとりひとりの選手には,選手だけが体感できる距離感であったり,課題が意識されているはずです。その課題をクリアしていく,という過程がトレーニング・スケジュールの中に常に加わることになる。意識が,ACLというレベルを超えたところに設定されることになると思うのです。


 フットボール・ネイションズと直結したところに,トレーニングが位置付けられる。


 戦術的な部分での熟成と,意識的な部分での高まりが,どうチームにポジティブな影響をもたらしてくれるのか。確かに,悔しい敗戦ではあるのですが,これ以上ない貴重な学習機会でもあったのではないか,と思うのです。


 それにしても,リアリスティックな戦いを挑んでくるチームですよね。


 また,チームとして一瞬の隙を見逃さない。ひとりひとりの戦術眼が,高い水準でバランスしている,と言いますか。


 失点直前は,浦和が反転攻勢に出ていた時間帯です。国内リーグ戦ほどではないにせよ,チーム・バランスを攻撃的な方向へと傾けた時間帯で,微妙に前掛かりになっていました。そのタイミングを捉えて,チームを加速させた。


 その加速態勢に,守備ブロックが揺さぶられたわけです。左アウトサイドでのクッションが機能しなかったために,カカ選手の縦へのスピードをまともに受け止める形で坪井選手が守備応対せざるを得なくなる。坪井選手が最初は対応していたわけですが,最終的には闘莉王選手も関与する形でボールを抑え込もうとしています。ただ,後手を踏んでいるだけに距離を詰め切れなかったところがあって,マイナス方向のトラバース・パスを繰り出され,センターに詰めてきたセードルフ選手に仕留められる。


 チームとして,相手に微妙な隙が生じたタイミングを見逃さない。そして,一撃を加えたあとはしっかりとゲームをクローズにかかる。


 スペクタクルかどうか,ということはあるにせよ,フットボールが持っているひとつの本質に忠実なクラブ,という見方もできるように思います。