“750”の血統。

当時はまだ,直線的な関係は結ばれていませんでした。


 TT−F1規定では,必ずしもベース・マシンのフレームを使う必要はなく,ベース・マシンの持っているポテンシャルがそのままレーシング・マシンのポテンシャルへとつながらなかったわけです。しかし。エンジンに関しては間違いなく直線的な関係がありました。


 デビュー・イヤーである1985年当時の話を読む限りでは。
 潜在的なポテンシャルは水冷の方が高かったようなのですが,補器(ウォーター・ポンプなど)の重量がいささかレーシング・ベースとしては不満だったのだとか。また,冷却水を循環させるためのウォーター・ジャケットなどによって,エンジン自体をコンパクトに仕立てられなかった,という部分もあったようです。エンジン冷却という課題をクリアしつつ,エンジンをコンパクトにまとめながら重量を抑え込む。その結果として,エンジン内部を循環している“オイル”を積極的に冷媒としても活用する,というアイディアへと行き着いたのだそうです。


 リリース当初から,レース・トラックを強く意識した存在ではあったわけです。ということで,ちょっとフットボールを離れまして。





 以前にも扱ったか,と思いますが“GSX−R750”であります。


 RZなどを中学時代に見てしまっている世代ですので,750ccという排気量にはちょっとした思い入れがあるのですが,実際にはWSB(JSB)やSSを考えると主流から外れた排気量,かも知れません。
 とは言え,プロフェッショナルとしてのキャリア,その階段を駆け上がってやろうと狙うライダーにとっては,いまだに大きな意味を持つマシンでもあるのです。ヨーロッパでは,ワンメイク・レースであるGSX−Rカップ(オフィシャルサイト・英語)が開催されていて,そのベース・マシンとなっているのが750ccモデルなのです。


 このGSX−Rカップ,なかなかに充実した選手権です。


 年間6ラウンドで戦われていて,2007シーズンではシルヴァーストーンやアッセン,マニ・クールなど,基本的にはWSBラウンドが行われるサーキットで前座として戦われている選手権です。当然,ワンメイク・レースでありますから,イコール・コンディションを維持するための規則はなかなか厳しいものでありまして。
 ちょっと規則に関するページを斜め読みしてみますと,ライダーのセッティング能力を問うことのできる項目に関しては,制限はかけられてはいません。サスペンション・セッティングであったり,サーキットの特性に合わせたギアレシオ(ドライブ側とドリブン側のレシオ)の変更などが許されるわけです。これ以外の変更やモディファイは禁止。タイアにしてもピレリによるコントロール制が敷かれ,使用可能なセットも上限が設けられていますし,レース・ガスにしても主催者サイドがエントラントに対して供給するという形を取っています。コスト削減を徹底すると同時に,ライダーが持っているポテンシャルであり,パフォーマンスがそのままレース結果へと反映されやすいような選手権にするべく配慮がされているのです。
 そして,参戦条件として上限年齢が明記されているように,若手ライダーを強く意識した選手権となっています。資金的には厳しい状況にはあるものの,ポテンシャルとして高いものを持っているライダーにとって,輸入代理店やディーラの目にとまれば,チャンスが広がることになる。欧州域内に本拠を置くスズキ輸入代理店による,若手ライダーのためのスカラシップ,という表現が適当かも知れません。


 かつて,GSX−Rからジャンプアップしていったライダーは結構います。


 スズキ・ワークスで#34と言えば,なケビン・シュワンツ選手であったり,ドゥカティのエースにもなったダグ・ポーレン選手であったり。
 彼らを育てたマシンは相変わらず,若手を育てるマシンであり続けている。レーシングな血統には変わりなし。そんな印象を持つ話です。