断絶しかけているリーグとの関係。

オン・ザ・ピッチの問題も相当大きいのは言うまでもないとして。


 オフ・ザ・ピッチの問題も看過できないような気がします。


 『イングランド敗退の混乱』と題された東本さんのコラム(スポーツナビ)をもとに。


 「やらかしてしまった」イングランドであります。


 ユーゴスラビアの流れを汲むクロアチアは決して侮れない相手ですし,ロシアもしかり。

 難しいグループではあったのですが,その難しいグループで,イングランドはいささかハッキリしない闘いぶりを見せてしまった。指揮官がブレのない明確な方向性を見せていたならば,同じ結論が待っていたとしても,もうちょっと印象は違ったものになったのではないか,などと思います。


 さて,オフ・ザ・ピッチの話,でありますが。


 時事通信さんの記事もちょっと持ち出してみましょう。


 時事の記者さんが指摘するように,プレミアシップで首位を争い得る能力を持ったクラブは,外国人依存度が確かに高い。ガンナーズを筆頭に,マンUもチームの根幹にあたる選手には外国籍が目立つ。リヴァプールもやはり似た印象を持つ。代表チームの基礎構造として機能すべきはずのリーグ戦が,健全に機能していない。


 時事の記者さんと同じような見方をしているひとも,多くいるに違いないところでしょう。


 反面で,“クラブは代表のためにあるのではない。外国人選手への過度の依存という以前の問題として,外国籍選手を押し退けていくような強烈な才能が出てきていないことが大きな問題ではないか”,という見方もあるはずです。


 この両論,どちらも一定程度の理を持っているように思います。


 リーグは,代表チームの基礎構造であり,代表チームはリーグの権威を背負う。個人的には,あるべき理想の姿だと思います。プレミアシップは世界的にも認知されているリーグ戦ですし,その権威を背負うべきイングランド代表は,本来予選敗退などということがあってはならない(リーグに泥を塗るような闘いは許されない),となるはずです。


 ですが実際には,ユーロ予選の段階で敗退を喫しています。となれば,プレミアシップと代表との間の関係がどこか正常な状態からズレつつあるのではないか。その原因を,イングリッシュが相対的にトップリーグから弾き出されてしまうリーグの実情や,クラブの姿勢に求めたということなのでしょう。


 ただ,クラブサイドから見たときには,この関係が崩れたとしても仕方ないこと,という側面も見えてくるように思います。プレミアシップが世界的な認知度を上昇させてきたのは,マンチェスター・ユナイテッドがトレブル(国内においてリーグ戦とFAカップを制覇,欧州カップ戦をも奪取)を達成したあたりからでしょうか。となると,プレミアシップというコンテンツが持つ「商品価値」が上がっていきます。すると,放映権料やスポンサー・フィーなどの資金が流入していきます。欧州カップ戦に参戦すれば,さらなる露出とともにインカムが期待されます。トップクラブへの階段を踏み外すことなく駆け上がっていけば,多方面にわたるベネフィットが期待できますし,ベネフィットを生み出す循環を寸断しないためには,「結果」に対して貪欲な経営戦略が要求されるはずです。ボスマン判決以降,飛躍的に外国籍選手獲得に対する障壁が下がり,自由度が上がっています。クラブにしてみれば,外国籍選手の獲得は合目的的,という側面もあるのです。プレミアシップの地位が飛躍的に上がったことで,代表との関係に歪みを生じた,という印象を持つわけです。同時に,スタジアムへと足を運ぶひととの関係にも,そしてTVの前のひととの関係にもどこかギクシャクしたものができはじめた。


 この構造を,根幹から見直すのは相当な困難を伴うに違いありません。


 緩やかに,「軟着陸」ができるようならばいいけれど,外国籍選手限定枠を導入してしまえばクラブ戦略が大きな方向転換を強いられることになるし,ケースによっては急激な成長戦略の副作用に襲われた“リーズ・ユナイテッド”の二の轍を踏みかねない。恐らく,スティーヴン・ジェラードやスティーヴ・コッペルが主張するところを実現しようとすれば,相当な犠牲を必要とすると思います。ただ,“スリー・ライオンズ”がその誇りを取り戻すためには,何とかして断絶しかけているトップリーグとの関係を再構築しなければならないのも確かなことだと思います。ともすれば副次効果として,スタジアムにあるべき空気が戻ってくる,かも知れませんし。


 FA,そしてリーグサイドがどのような結論を導くか。アウトサイダーとしても気になるところです。