対Sepahan F.C.戦(決勝第2戦)。

アウェイ・ゴールが,浦和のフットボール・スタイルを押し出す要因となった,ように思うところがあります。


 90分ハーフの前半を終了して,1−1。


 となれば,相手は得点を奪取しようと積極的に仕掛けを強めてくるはずです。先制点を奪ってしまえば,最悪でも浦和が持っているアドバンテージを無効化することができる。その仕掛けを単純に受け止めてしまうだけでは,恐らくは相手に試合のリズムを掌握されてしまうことになる。そうなったときに,流れを押しとどめることができるのか。


 そんな懸念を振り払うには,守備バランスばかりに意識を傾けるのではなく,積極的にゲームの主導権を掌握することで,「結果的に」守備バランスを取る方向へとチーム戦術を微調整していく。


 この仕掛ける姿勢が,ある意味では勝因ではなかったかと思うのです。


 かなり遅くなりましたが,決勝第2戦であります。


 さて,セパハンは仕掛けてくるだろう,と思ったのですが。


 立ち上がりから積極的に仕掛けていったのは,浦和でありました。セパハンはかなり堅い最終ラインを構築していましたし,中盤からのディフェンスも相当しっかりとしている印象がありました。その守備ブロックを崩すべく,パス・ワークをシンプルに構成したり,ドリブル&ランを仕掛けていくことで攻撃リズムを組み立てよう,という意図が表現されていたように感じるわけです。


 先制点を奪取した時間帯は,立ち上がりの時間帯,と言うほどでもなく,さりとて前半終了を意識しはじめる時間帯でもない。浦和の持っているフットボール・スタイルに「完全に」持ち込んだ,とは言いにくいものの,主導権を掌握しながら試合を進めることができていた,ということを明確に示すものだったように思います。


 スルー・パスが相手DFに当たってしまったことで微妙にコースが変わり,結果として相手最終ラインから抜け出すようにボールを収め,右足を振り抜いていく。実際に放たれたシュートも美しい軌道を描いてはいましたが,それ以上にしっかりとパスをレシーブするために相手守備ブロックの背後にあるスペースを狙ってランを仕掛けていたこと。そのことが,相手守備ブロックにクラックを生み出したように見えます。


 さて。浦和が先制点を奪取すると,セパハンもチームとして仕掛ける姿勢を作り出そうとしてきます。前半終了を待たずに戦術交代を仕掛け,ハーフタイムを挟んで後半開始の段階にも選手交代を仕掛けてくる。となると,浦和としても押し込まれる時間帯が増えて来ざるを得ません。


 ただ,このゲームでは実質的な“2ライン”になる時間帯が最低限で収まっていたように思います。


 中盤で相手の攻撃を抑え込むためのファースト・ディフェンスが仕掛けられると,最終ラインにかかる負担が少なくなるのですが,セパハンは中盤でのプレッシャーを回避しながら単純に前線が持っている能力に依存した攻撃を仕掛けていた。そのために,バックラインがどうしても自陣に近い位置に押し込まれ,アウトサイドまでが最終ラインに押し込まれてしまうことで,5バックに近い状態を強いられた。それでも,ディフェンシブ・ハーフがチーム・バランスを維持しようと相対的に高い位置からのプレッシャーを意識していたことは,この試合での鍵だったように思います。攻撃的な部分では後方からの分厚さとして機能し,守備面では最終ラインにかかる守備負担を軽減させるためにファースト・ディフェンスへと入る。決定的にチーム・バランスが後方へと引きずられることなく,リズムを掌握し続けることのできた要素,と思うわけです。


 そして,攻撃的な姿勢を失わなかったことも,このゲームでは大きかったはずです。相手の仕掛けを受け止めざるを得なかった時間帯にあっても,逆襲のチャンスを冷静にうかがう姿勢は崩さず,実際に「縦」への鋭さを武器とする攻撃を仕掛ける。その仕掛けに反応して,アウトサイドから大きくセンターへと絞り込んでいた(と言うか,エリア深くへと詰めていた)ことがきっかけに,GKからのリフレクトをヘッダーで押し込むことに成功する。


 ・・・決勝では,往々にして自分たちのストロング・ポイントを押し出すよりも,相手の持っているストロング・ポイントを消し去りながらゲームを進めるという形になります。


 ファイナルにまで上り詰めた,という意識が「勝ちたい」という方向へ意識を振り向けるのではなく,「負けたくない」という方向へと意識を向けてしまうのでしょう。ですが,ACLは決勝戦にあってもホーム・アンド・アウェイの形を崩すことなく,アウェイゴール・システムを維持してもいます。攻撃的な姿勢を要求する大会形式,ということも言えるでしょうか。


 この大会形式に,うまくチーム戦術を微調整できたのだろう,と思うのです。


 2005シーズン以降の浦和は,守備的な部分からリズムを作っているチーム,という側面は確かにあるけれど,同時に縦への鋭さを武器とする攻撃も特徴として位置付けられます。その2つの側面のバランスを,ときに攻撃サイドへと振り向けながら,アウェイ・ゴールへとアジャストしてきた。当然,チーム戦術が揺れ動いていた時期とグループリーグの時期が重なることで,「勝ち点3」を奪いきれないという印象を持ったこともありますし,ノックアウト・ステージに入ると,コンディションなどの問題を必死になってクリアしながらバランスを取ってきた。シーズンを通じての努力が,結実したのがこのゲームだったように思うのです。