グループリーグ回顧(RWC2007)。

ちょっとだけ,「世界」へと近付いてきたという感触。


 その感触は同時に,いままでのものとは違った,もっとリアルな「悔しさ」を選手たちにもたらしているのではないか,と思います。いわゆるラグビー・ネイションズの背中を実際につかまえかけた時間帯もある。それだけに,仕掛けをフィニッシュへと結び付けていくためのパワーであったりスキル,そして仕掛けるタイミングを一致させていくための戦術的なイメージといった要素で,ラグビー・ネイションズとの「差」を突き付けられたような感覚もあるかも知れない,と思うわけです。


 これらの要素を引き上げていくためには,何がトップリーグで求められるのか。


 そんな視点が必要だろう,と思いますね。


 ラグビー・ワールドカップ(RWC)であります。


 グループリーグ最終戦,カナダを相手にしたジャパンは,「勝利」という結果こそ奪えなかったものの,ドローという結果を手に入れました。このドローという結果,「現時点では」ニュートラルな評価をすべきだろうと思っています。当然ながら,RWCという舞台で敗戦を長く経験してきたジャパンにとって,その連鎖を断ち切ったことは収穫と表現してもいい。ですが,本当にジャパンにとっての「転換点」とできるかは,これからにかかっているようにも思うのです。


 そこで,グループリーグを俯瞰的に振り返ってみようというわけです。


 ジョン・カーワン(JK)を指揮官に迎え,RWCで目標として掲げたのは予選リーグで2勝を挙げることでありました。当然,この結果はセカンド・ラウンド進出を視野に収めたものでもあります。しかし,実際には1分け3敗という,目標達成からはほど遠い現実が提示されます。


 ただし,ひとつひとつのゲームを振り返ってみれば,付け入る隙がどこにもない,という印象を持たざるを得ないゲームは圧倒的に少なくなった,とも思います。少なくとも,“時間帯限定”であるにせよ,強豪国に対して自分たちのラグビーを真正面からぶつけることに成功していたようにも思うのです。ただ,当然ながら問題も同時に持っていて,チームが引き寄せかけている流れを決定的に引き寄せる(フィニッシュへと持ち込む)チカラが不足してしまっている。“小さな綻び”がチームに対する相手のプレッシャーに直結してしまう,という部分がグループリーグを通じての大きな課題だったように思うのです。


 ラグビーフットボールという競技を考えるとき,基本的には相手のプレッシャーを回避しながら自分たちのプレーを押し切る,“オープン・スキル”の精度が問題になるように思います。その精度が,ラグビー・ネイションズの強烈なプレッシャーにさらされることで大きく低下してしまう。そのために,攻撃をシッカリと押し切れずに逆襲を受けることが多い。そして逆襲を受けたときに,ディフェンスの対応が低さ,鋭さを維持しきれなくなることで守備的な破綻を招く。


 ワラビーズは,冷静にジャパンが疲弊していくタイミングを狙っていたように思います。彼らは後半に仕掛けの強度を一気に強めてきていたし,ウェールズとの対戦においても,リズムを掌握しきれなかったがためにチームが必要以上に消耗してしまった。そんな印象があります。対して,フィジーとカナダ相手には「勝てたかも知れない」という手応えを感じます。


 このことを思えば,ティア1・クラス(しかも,強豪である“ラグビー・ネイションズ”)には完全に持っているパフォーマンス,その裏側にある脆さを冷静に突かれてしまうものの,同じティア1・クラスでもティア2に近いチームには,真正面からの勝負を挑めるような状態にまで引き上げられつつある,という評価をしてもいいのではないか,と思うところがあります。ただ,ここで止まってしまうわけにはいかない。さらに,ラグビー・ネイションズとの距離を詰め,逆に彼らが持っている脆さを突けるまでに進化していかなければ,本当の意味で「強化」が達成されたことにはならないし,ジャパン・スタイルのラグビーを完成させたことにはならない。


 JRFUは,現任指揮官であるJKにできるだけ長期にジャパンを指揮してほしい,との意向を持っているようです。当然の結論だろう,と思います。考え方にもよりますが,最も重要な強化期間はジャパンにとってのRWCが終わった直後,まさしく今だろう,と思うのです。実際にフィールドに立ち,キャップを獲得した選手は皮膚感覚でどのような要素が相手に通用し,どのような部分が決定的に足りなかったか,理解しているはずです。そんな感覚をチームのパフォーマンスへと束ねていけるのは,この時期をおいて他にない。


 そして,チームとしてパフォーマンスを最大限に引き出すための鍵となるポジションに,いくつかの「穴」が生じたことも確かです。これは当然,このポジションでの競争が必要である,ということも示しているはずです。そしてもちろん,世代交代に伴う新戦力も考えていく必要がある。RWC2007におけるパッケージが,2011モデルのプロトタイプになれば,今大会での成績は決して,無意味なものにはならないだろうと思うし,是が非でも意味あるものにしなければならない,とも思うのです。