浦和ユース対市立船橋高校戦(高円宮杯2007)。

Jリーグ基準から言えば,「規格外会場」となってしまう西が丘。


 ですが,“セイン・ピスタ”として最も魅力を持った競技場かも知れません。また,2種チーム(高校チーム,クラブ・ユースを含めて)にとって,そして大学チームにとっても特別な響きを持った競技場ではないか,と思います。


 さて,高円宮杯(準々決勝)であります。


 ラウンド16でコンサドーレ札幌ユースU−18を退けた浦和ユースが対戦するのは,インターハイを制覇した市立船橋高校。ということで,まずは市立船橋の印象から。


 端的に言ってしまえば,SBの位置関係が浦和ユースに主導権を掌握されるひとつの要因だったように感じます。市船はどちらかと言えば,守備的な部分でリズムを作り出しつつ縦に鋭い攻撃を繰り出す,というゲーム・プランを持っているような印象があります。そのために,センター・ラインに対する意識は相当に強いように感じられましたが,最終ラインの意識もセンター方向に片寄ってしまう時間帯が多い。ある意味,星稜高校が持っていたウィーク・ポイントと同じような印象があるわけです。


 ただし,ディフェンシブ・ハーフとCB(ケースによってはSBを含めて)で構成される守備ブロックの安定性は確かに感じられましたし,ここからシンプルに前線へとボールを繰り出し,トップとの連携から少ないボール・タッチでフィニッシュを狙う,という攻撃意図は前半の段階から見えていたわけです。見方を変えれば,それだけ自分たちのフットボール・スタイルに対する信頼がある,ということになるのかも知れません。


 しかし,ゲーム立ち上がりから主導権を掌握していたのは浦和ユースです。


 市立船橋が持っているストロング・ポイントを消し去ることを意識するのではなく,ボール・ポゼッションを背景にしながら,少ないタッチでひとを連動させて相手守備ブロックを断ち割り,フィニッシュを狙う,ある意味で自分たちが持っているストロング・ポイントを前面に押し出すことを強く意識していたことで,仕掛けに対する積極性があったように思うのです。さらに言えば,アウトサイドでの主導権を掌握できていたことが大きいように思います。浦和ユースも4バック・システムを採用しているのですが,守備的な安定性を意識した4バックではなく,むしろSBの攻撃性を強く意識した4バックとして位置付けている。そのために,立ち上がりの時間帯にもシンプルなパス・ワークからフィニッシュへと持ち込む形が見られていたわけです。となれば,ゲームの主導権を決定的に掌握するためにも先制点を奪取しておきたい。そんな時間帯に,クラブ・ユースらしいコンビネーションでの崩しから先制点を奪取することに成功するわけです。


 このあとも,浦和ユースが攻撃的な部分で主導権を掌握していくのですが,追加点を奪取できずにハーフタイムを迎えます。


 ただ,後半に入るとゲームの主導権は市立船橋サイドへと傾いていきます。ごく大ざっぱに言ってしまえば,市立船橋のボール奪取が機能するようになってくるわけです。


 浦和ユースサイドから見れば,フィニッシュに持ち込もうかというタイミングでボール・コントロールを失うことが増えていく。また,市船の攻撃は縦への鋭さを主戦兵器としているために,ミッドフィールドでのファースト・ディフェンスからパス・コースを厳しく絞り込みながら最終ラインが守備応対を繰り返す,という形にはなかなかはまらない。そのために,守備ブロックの守備応対が,かなりスピードに乗った状態のボール・ホルダーに対するアプローチということになり,リスクを背負ったものへとなってしまう。


 そんなタイミングにPKを奪われ,1−1とゲームはイーブンの状況へと戻る。


 ここで浦和ユースは冷静だったな,と思いますね。


 カウンター・アタックに対する意識も持ちながら,バランスはシッカリと自分たちの攻撃を仕掛ける方向性へと傾け続けていたわけです。自分たちのフットボール・スタイルを手放さなかったことで,リズムを市立船橋へと持って行かれることなく,レギュラー・タイムを終了します。同じく西が丘で開催された準々決勝である,広島皆実高校−名古屋グランパスエイトU18戦と同じく,前後半10分ハーフの延長戦に突入したわけです。


 前半と同じエンドに入った浦和ユースは,ゲーム立ち上がりと同じように,積極的に仕掛けていきます。そして,95分に待望の追加点を奪取します。当然,市船も仕掛けの強度を上げようとしてきたように受け取れましたが,浦和ユースが持っているスタイルを受け止める時間帯が長くなっているようにも感じられました。そして延長後半に,ゲームを完全に決定付ける追加点を奪取し,市立船橋を3−1で退けることに成功するわけです。


 ・・・さて,インターハイで好成績を収めたチームを連続で退けたことになります。


 印象的なのは,市立船橋にせよ星稜にせよ,チームが持っているプライマリー・バランスが攻撃的な方向性を志向すると言うよりも,守備的な安定性を意識していたことです。その守備的なチームに対して,ワンチャンスを狙うという姿勢ではなく,自分たちが持っている仕掛けのアイディアを真正面からぶつけていく,というアプローチを続けながら勝ち上がってきたということは,最大限に評価していいように思うのです。


 さて,セミファイナルは流経大柏プリンスリーグ(グループB)で首位を争ったチームであります。ラウンド16〜QFと作り上げてきた流れをさらに強め,トーナメントの山を一気に駆け上がってほしい。そう思いますし,決して「高み」を陥れることが高望みではない,と思うだけのパフォーマンスを持ったチームだと感じますね。