対大宮戦(07−24)。

戦術面と,心理面が大きな要素となったゲーム。そんな印象があります。


 大宮戦であります。“Derby Match”であります。


 まずは,ごく大ざっぱに戦術面を振り返ってみますに。


 浦和はコンベンショナルな3−5−2。啓太選手が戦列復帰したことで,ディフェンシブ・ハーフは長谷部選手と啓太選手のコンビネーションへと戻ります。そして,前節からの変更点は左アウトサイドと最終ライン,ということになります。阿部選手がディフェンシブ・ハーフのポジションから最終ラインへと下がり,堀之内選手がスターターとなることで,坪井選手がリザーブへ下がる。また,アウトサイドは平川選手から相馬選手へとスターターの変更を受けている。


 3−5−2というパッケージこそ変化はないものの,このパッケージを構成する選手には微妙な変更を受けていた,ということになります。


 対する相手は,4−4−2。ボール・ホルダーに対する数的優位を早い段階で構築しながらボール奪取を狙い,同時にアウトサイドでの数的優位を物理的に構築する,どちらかと言えば守備的な要素を重視した4バック・システムのように感じました。


 今節にあっては,この守備的な4バックに対して,有効な仕掛けを繰り出せなかった,という部分が大きな要素になってしまったように思います。


 浦和の攻撃スタイルとして,ひとりひとりの持っているパフォーマンスを最大限に引き出しながら,そのパフォーマンスを巧みに組み合わせていく,という形で組織性が表現されるように思う。軸足はどちらかと言えば,ひとりひとりの持っている「個」のパフォーマンスに置かれている,という形になる。


 たとえば,ボールを受けるときの形として,スペースに対してボールを繰り出し,そのスペースを狙いながらボールを収めていく,という形よりも,足元に近い位置でのパス・ワークがかなり多い。パスを出す選手が攻め上がりながらパスを繰り出した場合でも,パス・レシーバはシンプルに攻め上がっていく選手に対してリターンを繰り出すというよりは,自らが持ち上がりながらボールをコントロールする局面が多い。それゆえ,フリー・ランニングを仕掛けた選手がフリーのまま機能しないというケースが発生してしまう。それでも,ひとりひとりのパフォーマンスが有機的につながるような形ならば,決定的な問題となることはないのだが,ボール・ホルダーに対するアプローチを速めるためにかなり高い位置に設定されていた,相手最終ラインの裏にあるスペースを狙った飛び出し,あるいは最終ラインを縦方向に押し込むような形でのフリー・ランニングがなかなか見られなかった。そのために,ボール・ホルダーに対するアプローチをなかなか回避できず,ボール・コントロールを失ってしまう局面が多くなってしまったように感じる。


 また,前半における決定機は積極的なドリブル&ランから構築できたものだが,ドリブルを仕掛けている選手に対するサポート,あるいは仕掛けを止められたあとのルーズ・ボールやリフレクションを狙えるだけの距離感を持ったポジション取りをしていた選手がいなかった。


 そのために,仕掛けがフィニッシュによって終わる形はなかなかなく,中途半端な位置でボールを奪取される局面が多かった。


 加えて言えば,相手の右アウトサイドを起点とした,シンプルなパス・ワークを基盤とした仕掛けに対する守備応対が後手に回ってしまったようにも感じる。攻撃面でのリズムを作り出すべきアウトサイドが守備的な対応にバランスを傾けざるを得なくなるのみならず,相手に対して,ボールを回しながらの攻撃が仕掛けられる,という部分での確信を持たせるような形を作り出してしまった。それでも,最終的なフィニッシュでの粗さによって,最終的に守備ラインが破綻するような形は前半はなかったのだが,後半はカウンター・アタックを仕掛けられることによって守備ブロックが後ろ向きでの守備応対を強いられ,安定性を失うことで,失点を喫することになってしまう。


 ・・・失点面に関しては,守備ブロックの対応に関する問題もあるかも知れませんが,それ以上に仕掛けが中途半端な形で止められてしまう,その原因を修正するという方向性を意識するべきかな,と思います。


 代表のオーストリア遠征に伴い,ちょっとしたインターバルが挟まる時期ですから,コレクティブな戦術を押し出してくるチームに対して,どのような仕掛けを繰り出していくか,整理しておく必要はあるように思えるのです。


 とは言え,今節に関しては戦術面と同様,心理面もゲームに大きな影響を与えていたように思います。


 基本的に,リーグ戦はすべてのゲームが同じように重要性を持っていて,得られる勝ち点は物理的に「勝ち点3」が上限です。とは言え,リーグ・テーブルの位置関係によって「勝ち点3」以上の意味を持つゲームもあるわけですが,“Derby”は順位表の上下関係などの「理」を超えて,勝ち点を争わなければならないゲーム,という位置付けになるはずです。


 この関係を,最大限にチーム・コンディションへと結び付けようとしたのが相手ではなかったか,と。


 たとえば。4バックをパッケージとして,相手の攻撃を組織的に受け止めようとしても,球際での姿勢がアグレッシブさを欠いたものであれば,あるいはアグレッシブさがラフという要素へと傾いてしまえば,相手の仕掛けを抑え込むというよりはさらなる攻撃の起点を提供することにもなりかねない。今節の相手は,ゲームの入り方に関して言えば球際でのアグレッシブさが感じられた。さすがに,ゲームをクローズするような時間帯にはラフさの方が大きく目立つようになってしまったけれど,このゲームを制することでネガティブな循環から抜け出せずに推移していたチームを,一気にポジティブな循環へ乗せる,ということを意識していたに違いない。


 そして,そんな指揮官の意識が選手にも徹底されていただろうことは,球際のアグレッシブさからも受け取れるように思うのです。


 この意識を,真正面から受け止めてしまっては,ゲームの主導権は握れない。


 少なくとも,この敗戦によってリーグ・テーブルへの影響はなかった。もちろん,勝ち点差が縮まったという事実は残るけれど,コレクティブな戦術を繰り出してくる相手への対応を含め,課題として浮上した部分を整理するだけの時間はあるはず。むしろ,この部分を意識してほしい,と思うのです。