バランス調整。

アウトサイドからではなく,インサイドからクリアすべきこと。


 ちょっと視点を変えてみようかと思っております。


 アジアカップにおいては,攻撃面においてスタイルが整理されたことが感じ取れました。ひとりひとりの「個」が持っている能力を組織として束ねていかなければ,真正面から「個」の勝負に打って出なければならなくなる。となれば,物理的な条件が直接的に勝負に反映されてしまうことになる。「使い,使われる」という意識は一定程度浸透してきたな,と思うのであります。
 「即興性」に多くを依存し,チームとして明確に共有しておく必要があるはずの「戻るべき場所」が結局構築できなかった4年間とは大きく違う。SF敗退,という結果があったとしても,この部分に関してはシッカリと評価する必要があるはずです。


 ただ同時に,現時点での課題も見えたゲームではなかったか,と。


 「攻撃面」という表現をしましたが,カウンター・アタックをゲーム・プランとして徹底している相手に対して,攻撃が“ビルドアップ”という段階で止まってしまっている時間帯が多いな,と感じるわけです。中盤から最終ラインにかけて,相手守備ブロックの密度はそもそも濃いわけです。にもかかわらず,狭いエリアで勝負を仕掛ける局面が多いために,フィニッシュに持ち込めずにボール・コントロールのミスからカウンターの起点を提供してしまうことにもなる。パス・ワークを基盤とする攻撃で,トラフィックに苦しむのであれば,「縦」への速さを活かしていく,という方向性が見えてもいいのだけれど,「縦」への意識が不思議と強まっていかなかったように感じられました。


 そのためにパス・コースが絞り込まれてしまい,結果として攻撃面が中途半端な形でストップしてしまう。このことはそのまま,最終ラインへの負担として反映されてしまう。ボール・ホルダーを最終ラインへと追い込んでいくようなディフェンスができるならば,守備応対を安定させることもできるけれど,シンプルにロングレンジ・パスを前線へと繰り出し,縦へのスピードを生かした仕掛けを受け止めるとなると,守備応対がギリギリのものへとなりかねない。


 「縦」という要素が弱まってしまったために,本来武器とすべき要素が弱点として相手に提供されることになってしまったのが,SFでのゲームだったように感じるわけです。


 「拠って立つべき場所(つまりは,戻るべき場所)」を持っているのは大きな意味がある。確かなことですが,ノックアウト・ステージにあっては相手の強みを消し去ることも同時に求められます。90分(ケースによっては120分)という枠の中で,この2つの要素を巧く使い分けながら主導権を握っていく,という形が求められるはずですが,サウジ戦では「縦」へのバランスを強めることでスタイルを微調整し,「相手の強みを消し去る」という部分での意識が薄かった。


 ベンチ・ワークやゲーム・プランによってできる戦術的な微調整もある。ならば同時に,“オン・ザ・ピッチ”での微調整があってもいいはずです。


 確かに,提示された戦術的なイメージはあるはずです。ですが,そのイメージをどのように具体化するか,という要素は選手に委ねられているところも多いはずです。そして,戦術的なイメージ,その目的は「ゴールを奪取する」,そして奪取できる局面をシッカリと作り出すということにあるわけで,「使い,使われる」という形はひとつではない。それこそ,あらゆるバランスが想定できる。その違う形をどれだけゲームの中で意識できるか。そんな部分をチームが“オン・ザ・ピッチ”で意識できるようになるかどうか,がサウジ戦での課題をクリアできるかどうかを決めるように思うのです。