対オーストラリア戦(アジアカップ2007・QF)。

ノックアウト・ステージ独特の難しさを存分に感じさせるゲーム。


 そんな印象が残っています。


 ノックアウト・ステージ初戦(準々決勝),オーストラリア戦であります。


 攻撃面と言うよりは,守備面でゲーム・プランが際立ったゲームだったように思うのです。それだけに,いまの代表がクリアすべき攻撃面での課題もクリアになったとも思います。相手がオーストラリアだったからこそ,進化の方向性を意識することもできた。


 ペナルティ・シュートアウトにまでゲームがもつれ込んでしまったのはもったいなかったけれど,PK戦を制してさらにチームが実戦を通じて進化することができる,そのチャンスをつかみ取ったのは大きな収穫,であります。


 このゲーム,攻撃面で強く意識していたのはアウトサイドであったように思います。


 グループリーグと同じように,4−4−2というパッケージを採用してはいましたが,中盤の機能性,という部分ではちょっと変更を受けていたように思うのです。オフェンシブ・ハーフが,“センター”での役割よりも“アウトサイド”での役割を相対的に強めていたように思うのです。SBとの関係性が,“ダブル・アウトサイド”という形にまで徹底されているとまでは感じないまでも,オーストラリア守備ブロックを揺さぶるにあたっては,センターからの仕掛けを意識するよりは,アウトサイドからの仕掛けを起点として意識する,という戦術的なイメージが徹底されていたように思います。実際に,アウトサイドから相手守備ブロックを揺さぶるという形が表現できていたように思いますが,相手守備ブロックはフィニッシュの部分での堅さを見せ付けてもいた。


 オーストラリア守備ブロックは比較的低い位置に構え,ボール・ホルダーに対して組織的に最終ラインへと追い込んでいくというディフェンスではなく,フィジカル面でのアドバンテージを前面に押し出した,ストリクト・マンマークの要素を強く持つ守備応対を徹底してきます。言い方を換えれば,カウンター・アタックを繰り出す起点として,守備ブロックを意識していたように受け取れました。


 ただ,ここからのカウンターを,効果的に抑え込めてもいた。


 中盤で,カウンター・アタックの起点として機能するディバイダーをディフェンシブ・ハーフによって抑え込むことで,相手の攻撃速度を大きく低下させると同時に攻撃の起点を作り出していました。また,最終ラインは相手の前線にシッカリとしたマークを維持することで,ボールをいい形で保持させないような守備応対を繰り返していました。とは言え,「高さ」をアドバンテージとして押し出すことのできるセットプレーでの脅威はなかなかコントロールが難しいようにも感じました。前半の段階でも,ロングスローからゴールマウスを脅かすような形がいくつか見られたわけです。


 そして後半,CKに反応してエリアへと飛び込んできた選手に対して,マークが付ききれなかったことから失点を喫してしまう。


 ゲームをコントロールしながら,セットプレーという警戒していたはずのプレーから失点を喫する。ただ,ここからの反発力は素速く,正確でした。主戦兵器としているパス・ワークからの仕掛けを強め,ゲームをイーブンへと引き戻すことに成功します。この流れを維持できれば,レギュラー・タイムで追加点を奪取することもできるかも知れない。ゲームを決定付けられるような流れを作り出したようにも思うのですが,実際には“sent off”がゲームのアヤを作り出してしまうわけです。


 何回か扱ったことのある,“パワープレー”が作り出してしまう複雑なアヤ,であります。


 外形的に見れば,数的優位の状況があるのだから崩しにかける人数が自動的に多くはなる。この部分だけを考えれば,相手をレギュラー・タイムの段階で退けられる可能性も確かにあったように見える,かも知れません。ただ実際には,相手の意識がひとつの方向性へと収斂していくきっかけにもなるはずだし,守備的なゲーム・プランを持っていたならば,そのゲーム・プランがさらに徹底されるきっかけにもなる,という部分を意識する必要があるはずです。数的優位が実質的なアドバンテージとはならないことはままあって,このゲームでも逆にアタッキング・サードでの渋滞を生み出してしまったようにも思えます。


 相手は間違いなく,“ゲームを壊す”という意識に傾いていたはずです。それだけに,ビルドアップという部分での主導権は確かに掌握していたように思うけれど,最終的なフィニッシュの段階は巧妙に相手にコントロールされてしまった,という印象もあります。「縦」方向での仕掛けを加速できなかったことで,トラバース・パスが守備ブロックを引き出すきっかけとしては機能せず,脅威を伴ったものとなってくれなかった。相手のゲーム・プランが徹底されてしまったことで,仕掛けのスタイルを微調整する必要が出てきたはずなのだけれど,実際にはフィールド・プレイヤーが10:10の状態と同じ,具体的に言えば同点に追いついたときと同じリズムを押し切ってしまった。


 このことを考えると,数的優位となって以降の時間帯は,「形式的には」主導権を掌握していたようにも見えるのですが,リスク・マネージメントという部分では相手のゲーム・プランに乗ってしまった部分もあるように感じます。


 仕掛けのリズムを加速させ,相手守備ブロックを積極的に揺さぶっていく,という意味での“ギアチェンジ”では熟成の余地を残している。守備ブロックが低い位置で構えているときに,その守備ブロックを引き出すためには,横方向のパスだけでなく,縦方向へのパスを繰り出せるような動きが必要になってくる。そんな動きを,どのようにして作り出していくか。しかも,相手は「専守防衛」を意識しているわけではなく,前掛かりになった隙を狙ってカウンターを繰り出そうともしている。その相手に対しては,精度も必要となってくる。


 いままでの「対アジア」な戦い方に,応用が必要になってくるように思います。


 この課題をクリアできると,チーム戦術は確かな進化を遂げられるのではないか。ドローという結果は,いまの代表がクリアすべき課題,そして進化の方向性を提示するものでもあるように思うのです。