本格的レーシング・ハイブリッド。

JGTCを見ていたひとならば,「随分と古いマシンを・・・」と思うかも知れません。


 現在,スーパーGT(GT500クラス)ではレクサスSC430(かつてはソアラと言ったクルマですな。)を使っていますから,スープラは「型落ち」であります。オマケに,生産中止になってから結構な時間が経過してもいる。それゆえに,確かにGT500クラスでの戦闘力は高い水準を維持していたけれど,「中古車選手権」なんてありがたくもないニックネームを頂戴する,そのきっかけになったマシンでもあります。


 そんなGTマシンを,単純に24時間耐久レースへと持ち込んだ,わけではない。


 ボディシェルに隠された部分は,考えようによってはレクサスSC430を大きく超える,「革新的なレーシング・マシン」であって,そんなマシンがポディウムの中央に上がったというのはその先に期待を持たせるものがあるな,と思うわけです。




 先頃開催された,十勝24時間耐久で,サードさんが仕立てた“スープラHV−R”が総合優勝を果たしたわけです。レースの流れなどに関しては,こちらのレース・レポート(サード・オフィシャル)がすごく丁寧に流れを追っていますので,こちらを読んでいただくとして。


 ほぼ1年前,サードさんはレクサスGSハイブリッドを十勝24時間耐久へと持ち込み,完走を果たしています。そのときは,レーシングな状態に耐えるためのモディファイは最低限にとどめられ,トランスミッションにしてもストック状態(電気式無段変速機)を維持していました。このときは,市販ベースのハイブリッド・システムをレーシングな環境に適応させるだけのモディファイをする,という方向性でした。いまにして思えば,“フィージビリティ・テスト”(実行可能性調査)だったのでしょう。


 今回は,「結果」を意識した改造へと完全に軸足を移しています。同じサードさんのサイトに掲載されている,参戦体制発表に関するリリースを参考にしながら進めますと。


 まず,素材として実績のあるスープラシャシーを持ち出します。当然,エンジンもGT500クラスで投入されている4.5LV8を使ってきています。ここで肝になるのが,ハイブリッド・システムの根幹である制御システムではないか,と。開発期間が比較的短いことを思えば,2006シーズンの実績を踏まえてレクサスGSハイブリッドのシステムを持ってきている,かも知れません。さらに,2007シーズンではモータ駆動によって4WDのメリットも活かす方向性へと進化した。左右両方の前輪にモータを取り付け,コーナ脱出時には4WD的に脱出加速を高め,逆に減速時には回生効果を使ってキャパシタへの充電効率を高める一方で,フロント・ブレーキに掛かる負担を軽減する。


 レーシングな世界での経験が深い,サードさんならではのアイディアだな,と思います。


 ただ,個人的にはサードのアイディアも大きかったのでしょうが,トヨタ本社が本気になった証ではないか,と思っています。開発期間が昨季同様にかなり短かったこと,その短さに比してトラブルが少なかったことなどを思えば,ほぼファクトリー体制で乗り込んできたのではないか,と思うのです。ちょうど,アウディ・スポールとヨーストの関係のように,技術的なコンサルティング,レース・オペレーションをサードが担当した,と見るべきかな,と。


 ル・マン24時間耐久ではレーシング・ディーゼルが勝負権を持つようになっています。車両規則的にも,ガソリン・エンジンで真っ向からレーシング・ディーゼルに勝負を挑むのは厳しい状況になりつつある。この,レーシング・ディーゼルに対する対抗軸として,トヨタはレーシング・ハイブリッドという方法を打ち出す気になったのではないか,と期待しているわけです。


 近い将来,サルテ・サーキットにレーシング・ハイブリッドシステムを搭載したLMP1マシンが登場する,その予告編としてスープラHV−Rを見てもいいのではないか,と思います。