さいたまシティカップ2007。

PSM。そのココロはベンチマーク・テスト。


 というような観点から見ていくことにします。


 今回の対戦相手はマンチェスター・ユナイテッド。2005年に開催されたヴォーダフォン・カップ以来の対戦であります。インターナショナル・フレンドリーですと,常に対戦相手のコンディション面が問題になりますが,今季はワールドカップ欧州選手権がないだけに,比較的安定したコンディションだった,と見ていいかも知れません。


 こればかりは仕方ないこと,かも知れませんが,立ち上がりからリズムをほぼ完全にマンUに掌握されてしまい,逆襲を仕掛けるにしてもパス・ワークを基盤とした攻撃ではなく,シンプルなカウンター・アタックに限定されてしまっていたように思います。


 しかし。フットボールにも化学反応はあるな,と感じますね。


 内舘選手の強烈なミドルにしても,どこか“プレミアシップ・スタイル”に触発されたところがあるように感じるわけです。恐らく,通常のリーグ戦であればバックアップを待ってさらなる仕掛けを組み立てる,という選択をしているかも知れません。相手のプレッシャーがそれほど強烈に掛かってくるわけではないし,判断速度を速めなくとも,あるいは積極的に局面を打開すべく仕掛けに入らなくとも攻撃が組み立てられる部分があるから,かも知れません。


 ですが,マンUのプレッシャーは相当に厳しく,早い段階での仕掛けを必要としてもいました。“チャレンジ”という姿勢が先制点奪取に結び付いたのは,チームにとって大きな意味をもたらすものではないか,と思います。


 また,アウトサイドの能力も引き出されたな,と。


 もともと持っているポテンシャルが引き出された,という意味ではうれしい限りなのですが,そのポテンシャルを実際のパフォーマンスとしてリーグ戦やACLでも示してほしい,と思うところであります。


 さて,ゲームを掌握する,という部分においては圧倒的であったマンチェスター・ユナイテッドの強みは,圧倒的な「個のチカラ」なんて説明をしたくなりますが。


 実際に「個のチカラ」を構成しているのは,オープンスキルでありクローズドスキルであって,それらの基礎技術を常に安定して発揮できていること,にあるような感じです。局面ベースで見れば,圧倒的な個だけが突出しているように見えるのですが,実際にはひとつひとつの個がシッカリと戦術的な枠組みを作り出していて,単なる“エゴ”にはなっていない。ウェイン・ルーニーにせよ,クリスティアーノ・ロナウドにせよ徹底して自分の強みを押し出したプレーをする一方で,チームを機能させるためのプレーも忠実にこなしている。


 最大の収穫はこの点にあるのではないか,と思うのです。


 彼らの仕掛けは,表面的に見るとすごくシンプルです。ただ,基盤となっている基礎技術が安定しているから,精度が高い。たとえば,トラップが安定しているからリズムを崩すことなくボールを扱うことができ,チーム全体としての仕掛けの速度を落とすことなくさらにパスを繰り出すことができる。また,ボール・ホルダーがプレッシャーを受けたとしてもカンタンにボールを失うことがないから,仕掛けに分厚さが生まれてくる。また,ボールを奪われたとしても直後の対応が徹底されている。ボール・ホルダーに対するチェイシングが徹底されているし,ボールを奪取できないとしてもプレッシャーを厳しく掛け与えていく,という戦術イメージは明確に共有されている。


 ごくカンタンに言ってしまえば,「使い,使われる」が高みで安定しているように思うのです。


 至極当然のこと,なのですが,その背後には“カッティヴェリア(悪意,とも訳される言葉ですが,フットボール的には自分が持っている能力を最大限に表現するために,他者を効果的に使うという意識,と理解すべき言葉かな,と思います。)”,そしてひとりひとりが持っているカッティヴェリアを束ねていくチーム戦術の徹底など,当たり前のことが積み重なっているはずです。


 マンUとのゲームを通じて,浦和がさらにチーム戦術を熟成させるにあたっての方向性,あるいはひとりひとりの選手がどのような部分を意識していくべきか,という部分での大きなヒントは手に入ったかな,と思うのであります。