対ベトナム戦(アジアカップ2007・1R第3戦)。

ともすれば,「想定外」の部分があったかも知れません。


 グループリーグ最終節・ベトナム戦であります。


 まずはベトナムでありますが,確かに絶対的な基盤として置いているのはカウンター・アタックでありました。ですが,リアクティブにカウンターを繰り出すのではなく,巧みに攻めさせて前掛かりになったところでボール・ホルダーを囲い込みながらカウンターを仕掛けるという意味で,積極的に仕掛けてきていたな,という感じです。


 このゲーム・プランにシッカリと乗ってしまったような印象があります。


 最終節,チームが持っている選択肢は確かに多かったわけです。最終節,勝ち点3を奪取すればグループリーグを首位で通過できる。しかし,最低条件としてベトナムとして引き分ける,というオプションもあった。それゆえ,慎重にゲームに入ることを強く意識しすぎたのか,結果として立ち上がりのリズムをベトナムに掌握されたような感じです。それだけに,CKからのオウン・ゴールがネガティブな影響をチームに与えるのではなく,逆にチームに対する大きな刺激として作用してくれたことは大きいと思います。


 どこか,クルーズ・ギアに入っていたような印象があったチームが,この失点をきっかけに加速態勢を再び整えたように受け取れたわけです。


 この最終節,中盤でのスペースを消す一方でカウンターを仕掛けようと意図している相手に対して,ロングレンジ・パスを巧く使うことで守備ブロックを崩す,という戦術的な意図が比較的明確に見えたように思います。


 ゆっくりとした深い位置でのパス・ワークからタイミングをはかり,仕掛けるタイミングにあっては相手SBのさらに外側にあるスペースを狙って,ロングレンジ・パスを繰り出す。そのときに,SBとセンター・ハーフがバランスを維持しながらポジションを入れ替え,攻撃の起点を作り出す。そこからボールをエリアへと折り返し,フィニッシュへと持ち込む。


 ゲームを50:50の状況へと引き戻し,リズムを取り戻すきっかけになった形は,“ひととボールを積極的に動かす”フットボールをカウンター対策を織り込んだものへと変化させたもの,というように感じられます。また,俊輔選手による追加点奪取の場面では,これまで徹底してきたフットボール・スタイルが表現されていたように感じますし,グループリーグを通じて仕掛けの幅が広がってきたこと,時間帯によって仕掛けのスタイルを巧みに微調整できはじめたような印象があります。


 機動性を主戦兵器とするフットボールを展開しようとしても,厳しいコンディションを考えれば90分プラス動き続けるのはほぼ不可能。否応なく,自分たちで仕掛けのリズムを強く意識しなければならない状況だと言えます。とは言え,「ひととボールを積極的に動かす」という仕掛けのスタイルは(発展途上であるにせよ)築き上げた武器でもあるのだから,その武器を単純に捨て去るわけにはいかない。


 であるならば,読売朝刊で李国秀さんが指摘しているように,「タイミング」を感じられることが重要な要素となるはずです。


 相手のプレッシャーが比較的緩いエリアで,緩やかなパス・ワークを通じて仕掛けのタイミングをはかる。当然,このタイミングで仕掛けの前段階となる駆け引きを繰り返し,スペースを狙う動きが連動している。そのスペースを狙う動きと相手を焦らすパス・ワーク,鋭く縦にパスを繰り出すという一連のタイミングが合致してくると,スペースが狭い中での局面打開,という部分できっかけが見えてくる。仕掛けるべきタイミングと,ゲームを落ち着かせるべきタイミングをハッキリとさせると同時に,ゲームの主導権を掌握したままにプレーすること。ミスとどうしてもお付き合いしなければならないフットボールという競技にあってはなかなか難しいタスクですが,このタスクを(当然,ミスを織り込みながら,ですが)こなせるようになってきている,と感じさせたのが最終節ではなかったかな,と思うのです。


 ですが,立ち上がりの時間帯は相手の仕掛けを真正面から受け止めてしまい,仕掛けるタイミングをはかるという状態にまで持ち込めなかった。しかも,発生してしまったミスをコントロールできずに先制点へと結び付けられてしまった。


 表面的に見れば,チームに焦りが生じてしまうような状況に対し,失点直後の時間帯に自分たちのフットボール・スタイルを自律的に微調整し再び積極的に仕掛けていく。そして,結果へと結び付けることでリズムを決定的に引き戻したという部分は,グループリーグでの大きな収穫ではないか,と思います。