対カタール戦(アジアカップ2007・1R第1戦)。

リアリスティック方向にバランスを傾けたゲーム。


 ではあるのだけれど,詰めの段階でリアルに徹することができなかった。
 また,仕掛けていくときにアタッキング・サードでの「縦の鋭さ」を演出しきれなかった。
 恐らく,指揮官が指摘したいのはこのことでしょう。


 アジアカップ2007であります。


 ボールを積極的に動かすと同時に,そのボールを呼び込むべくオフ・ザ・ボールでの動きを要求する。このスタイルを,90分プラスという時間で徹底することは,ほぼ不可能でしょう。特に,アジアカップが開催されているハノイ,その気象条件を思えば。
 となれば,慎重な立ち上がりになるだろうことも想像がつくし,チームが全体として加速しながら仕掛けていく,という時間帯がかなり限定されることも想像が付くことです。


 ですが,このゲームにあっては「縦方向での鋭さ」が失われていたように感じます。
 そのために,ボール・ポゼッションがカタール・サイドに対するプレッシャーへと直結しなかったように思うわけです。1トップ・システムを採用してきた,ということは,中盤から積極的に前線へと飛び出す中から相手守備ブロックを揺さぶることでスペースをこじ開ける,という戦術的なイメージが想像されますが,前半にあってはなかなか積極的なポジション・チェンジからチャンスを作り出す,という形はなかった。
 むしろ,サイドからの仕掛けによって相手守備ブロックにギャップを生み出し,そのギャップに詰めていく,という形からチャンスを作り出していたような感じです。


 そのスタイルが,緩やかに鋭さを増してきたのが後半だったように思うのです。


 前半は,相手守備ブロックだけでなく,中盤までもが自陣に近い位置で守備応対にあたり,かなりプレー・スペースを限定されてしまっていたように感じますが,後半に入ってカタールが仕掛けの姿勢を見せ始めたことで,全体的にスペースが生まれるようになってきた。ある意味,持っているフットボール・スタイルを表現するための前提条件が用意されたように思えます。
 実際,先制点を奪取した仕掛けは,鋭さという部分では最大限にパフォーマンスを活かしたものとは言えないまでも,これまで構築してきたフットボール・スタイルを明確に表現したものであるように思えます。それだけに,戦術交代によって機動力と鋭さを持った羽生選手が投入され,チームがダイナミズムを増した時間帯に追加点を奪取できなかった,という部分は“フィニッシュの精度”という問題も含めて,第2戦以降に対する明確な要修正課題になるはずです。


 また,仕掛けが有効に機能しはじめた,ということは,チームが前掛かりになる時間帯が多くなるということも意味するわけですから,中途半端な位置でボールを奪取されると相手のカウンター・アタックを真正面から受け止めざるを得ないことになる。しかも,カタールは中盤で手数をかけることなく,縦にシンプルな攻撃を組み立てる。この仕掛けに対して,ボールが奪われたポイントからのファースト・ディフェンスが有効に機能しなければ,ギリギリの守備応対を強いられることになる。


 日本に対して,徹底的にリアリスティックな姿勢を貫いてくる相手に対して,どのように局面を打開し,逆に守備面での決定的な破綻を生じさせないか。いままでも問われてきた課題を,あらためて提示されたのがこのゲームだったように感じもします。
 ですが,このゲームで持っているポテンシャルが決して低くないこと,指向するフットボール・スタイルに着実に近付いていっていることも示されたように感じます。


 ならば,このスタイルと,リアルに対抗し得るだけのリアルを共存させる。次戦でそんな姿が見られるか。注目すべきは,そんな部分ではないか,と感じます。