フットボール版“Bad Ball”。

2つ前のエントリで,“Bad Ball”という用語を取り上げましたが。


 フットボールにおける“Bad Ball”は,もうちょっと意味が広いかな?と思うところがあるし,この言葉が指し示す状況,そしてこの状況を抜け出すためにできることは,すでに今季の浦和が示している,というようにも感じます。そこで,今回はラグビーの用語を使って,フットボールを見てみようと思います。


 まず,基本に立ち戻ってこの言葉の意味でありますが,「スローダウンさせられた(スムーズさを欠いている)球出し」であります。となると,当然ながら守備,攻撃両面に関してこの言葉が当てはまる可能性がある,ということになります。


 守備面では,「バッドボールという状況を作り出す」ということが求められます。


 ボール・ホルダーにプレッシャーを掛け与えることによって,パス・ワークにディレイを作り出し,守備ラインが整うまでの時間を稼ぎ出すこと,ということになるでしょうか。このバランスが,シーズン初期にはいささか不安定だったように見て取れます。パス・コースがある程度限定されていれば,守備ラインのパフォーマンスが最大限に引き出せるということは,2006シーズンのスタッツが示しているところですが,パス・コースを厳しく限定していくような動きであったり,ボール・ホルダーを最終ラインへと追い込んでいくような動きが連動性を失ってしまうと,守備ラインは不安定な態勢での守備応対を強いられることになります。


 今季序盤は,ボールを奪われた直後の守備応対が,必ずしも厳しいプレッシャーを伴ったものではなく,チーム全体が縦方向に大きく引き延ばされた状態での守備応対をしなければならない時間帯が多かった。相手に“Good Ball”(スムーズな球出し)な局面を与えてしまうゲームが多かった,ということになろうかと思います。


 逆に攻撃面では,「バッドボールな状況を回避する」ことが求められます。


 ごく大ざっぱに言えば,自分たちのリズムでボールを動かす,ということが求められるはずですが,シーズン序盤を考えてみると,“Good Ball”な時間帯はいささか少なかった。ボールが大きくピッチに展開される,と言うよりは選手の足元をピンポイントで狙うようなパス・ワークが多く,“スペース”を巧く使いきれなかったような印象が強いわけです。


 もちろん,足元を狙ったパスを駆使しながら,同時に選手が高い連動性を持ちながら縦への圧力を高めていく,というフットボール・スタイルも攻撃としては魅力的なものがあります。ただ,このスタイルの前提条件となる,“ライン・コントロール”が抜け落ちていたように思うし,ボール・ホルダーにパスの選択肢を与える「連動性」が局地的なものに限定され,スペースを鋭く突くような形でのフリー・ランを活かす形での連動性はなかなか見られずにいた。


 そのために,相手からすれば「守備の仕掛けやすい状況」があったのではないか,と感じます。


 スペースを狙う姿勢が前面に押し出されているとすると,ひととスペース両面を意識したディフェンスを意識する必要があるはずですが,スペースを積極的に狙う姿勢よりも,ひとの足元を狙うパスが多いために,ひとに対する守備を意識していれば,効果的なディフェンスがほぼ可能になってしまう。となれば,高い位置でも相手のプレッシャーを回避するために,ボールを隠す動きを織り込むなどディフェンシブ・ハーフのようなな動きをしなければならず,「縦」に対する速さが落ち込んでしまうことになるし,相手守備ラインに対するプレッシャーが弱まってしまうことにもなる。


 どこかが決定的に悪いというわけではない。


 しかし,ひとりひとりのパフォーマンスがひとつの方向性を指向しているような印象が薄い。微妙なズレが積み重なることでチームがコンパクトさを維持できず,連動性も低いままに推移する。


 そんな閉塞状況を抜け出す契機となったのが,達也選手の復帰ということになるかと思います。ひとりのパフォーマンスが,チーム全体のパフォーマンスをポジティブな方向へと転換させる。攻守両面での“Bad Ball”を,“Good Ball”へと転換させ,グッド・ボールな時間帯を増やしつつある。


 やっと,2007スペックが形を見せてきた。再び,高みを陥れるために浦和が主戦兵器としてきた要素,またさらなる進化を遂げるためには必要となるはずの要素がいよいよ揃ってきた,というような感じがします。