Pace Setting.

ひさびさに屋号な話からはじめようか,と。


 意外な感じがしますが,“ポール・トゥ・ウィン”という形は難しいのだとか。「明確な敵」がいないから,というのが主たる理由のようです。


 確かに,そういう部分はあるかも知れません。


 抜き去るべき相手が目の前にいるわけではなく,その相手とのタイム差,という明確な目標も存在しない。それだけに,基準の設定が難しいのでしょう。そのためか,1位というポジションを守ることだけに意識が傾いてしまうと,ペースを守るつもりが崩してしまうことにもなる。リスクを回避してペースをちょっとだけ落とすつもりが,大きく落としすぎてしまったり,予想外のタイミングでミスを出してしまったりする。


 逆に言えば,当然のようにポール・トゥ・ウィンを決めてみせるレーシング・ドライヴァは,実力も高いものを持っているでしょうが,それ以上にしっかりとした構成力を持ち,しかも自分のポジションを俯瞰的に意識することのできる,心理的な強さを持っている,ということになるように思います。


 この姿が100%チームに当てはまる,とは思いませんが。


 ペース・セットのあり方,という部分では意識すべき部分はあるかな,と。


 特に,「維持する」という方向性だけに意識が傾いてしまうと,隙のようなものが生まれる,というのはフットボールにあっても間違いなくあり得ることではないか。


 ゲームをコントロールする,というアイディア自体は,間違ったものではないと思います。リードを確実なものとするために,ゲームを巧妙に壊すという必要性も,時には意識する必要があるでしょう。ですが,「相手を受け止める」ことだけに意識が向いてしまう,というリスクを抱え込むことになってしまっては,せっかく引き寄せている主導権を,自ら手放してしまうことと同じことになってしまう。


 主導権を譲り渡さないためには,守備的な方向へとチームのバランスを変化させたとしても,浦和の持っているフットボール・スタイルを押し出す,という部分を失わないことが求められるはずです。同じリトリートにしても,心理的に相手の攻撃を「受けて立つ」形での守備応対ではなく,積極的に網にかけていく,という方向性での守備応対になれば,ゲームを通してのペース・セットはもっと楽になるのではないか。


 戦術的な成熟,というのは,恐らく90分という時間の中でどのように攻撃を仕掛け,どのように守備応対をするか,という部分でのペース・コントロールをどれだけスムーズにこなせるか,という部分もあるだろう,と思うのです。