対コロンビア戦(キリンカップ2007)。

よく,代表監督をして“セレクター”なんて言いますが。


 イビツァさんは間違いなく,“セレクター”であると同時に理想の高い“コーチ”だな,と感じます。
 もうひとつ思うことですが,アメリカン・スポーツのように高い戦術的浸透度を必要とする,代表チームという枠組みを超えて,クラブ・チーム的な方法論を落とし込むつもりだな,と。


 その意味で,稲本選手と中田選手がなかなか機能しなかった,というのは仕方ない部分があるでしょう。ということで,いつものようにノンビリと,コロンビア戦であります。


 ごく大ざっぱな印象を言えば,イビツァさんが狙うフットボールは,バスケットボールのようなフットボール・スタイルを指向しているように感じます。
 実際問題として,攻撃面,守備面の両方でバスケットのようなイメージが強くあるように思うのです。


 守備面で言えば,ゾーン・ディフェンスの側面も当然持ってはいるものの,基本的には1on1での強さを強く要求する,マンマーク・ディフェンスの側面を強く持っています。オールコート・マンマークとまではいかないまでも,最終ラインに求めるものは,ライン・コントロールという部分よりも対人能力の高さであったりするように思えます。
 そこからの仕掛けはパス・ワークを絶対的な基盤とはするものの,「縦」への鋭さをハッキリと要求する,足元ではなくスペースを狙うスタイルを指向しています。当然,局面によっては遅攻を仕掛けていく必要もあるのですが,チームとして“フィニッシュを狙う”という姿勢を押し出しているときには,かなり縦方向への速さと,スペースを意識した攻撃を指向しているように思えるわけです。羽生選手が戦術交代によって投入されて以降,チームとしての方向性がハッキリしたような感じがするのは,彼のプレー・スタイルが「縦」を強く意識したものであることも関わっているように感じます。さすがに“24秒”でフィニッシュにまで到達することを課してはいないでしょうが,ちょっとバスケット的に感じるわけです。


 後半,憲剛選手がフィニッシュを決めきれなかったのがいささか残念ではありますが,あの組み立ては間違いなく,イビツァさんが指向するフットボール・スタイル,そのエッセンスを明快にピッチに表現したものだろう,と感じます。
 スコアレス,という結果よりも,後半にはバスケット的なフットボールという部分で,「その先」につながる具体的なプレー・イメージが表現できていたのではないか,と思うわけです。“キリンカップ”というタイトルを奪取したことよりも,ともすれば大きな収穫があったのが後半のプレーではなかったか,と。


 それだけに,戦術的なイメージがしっかりと束ね上げられていないと,チームに対するブレーキになってしまう可能性が高い。稲本選手と中田選手にとっては,「代表チーム」に合流した,と言うよりは,戦術的なすり合わせなしにクラブ・チームの実戦に参加してしまった,という感じを持ったかも知れません。だからと言って,前半45分間だけで「海外組」の可能性が見切られたとは思わない。むしろ,実戦のプレッシャーを通して,早く意図するフットボール・スタイルを吸収し,イメージを具体的なものにして欲しい,という意識も働いているのではないか,と思うのです。


 この部分とは別に,前半の布陣はひとつのオプションになりうるかな?と感じます。


 1トップ2シャドー,と言いますか,ウィンガーを活用する方向性もあるかな?と思うわけですね。
 アウトサイド,と言うとどうしても縦方向への鋭さが優先順位として上位に位置付けられるか,と思うのですが,実際には戦術的な理解度が高く,視野が広い選手が必要とされるポジションでもあるのではないか,と思うのです。その意味で,遠藤選手と中村俊輔選手がシャドーの位置に入る,というのは論理的な選択,でもあるようには思うわけです。


 しかしながら。中盤を分厚くするという方向性でシャドーを入れるというのもひとつのアプローチですが,縦への鋭さを増す,という方向性でのアプローチもあっていいかな,と感じるわけです。ごく端的に言ってしまえば,ドリブラーをもっと積極的に使ってもいいかな,と思うわけです。


 バスケットボール的,あるいはアイスホッケー的なスタイルを目指す。


 スペースを強く意識した,手数を最小限にとどめた速攻。確かに,2002年本大会以降,ボール奪取からフィニッシュに至る時間は短縮の方向性にある,というようなレポートを見たような記憶もあるし(って,このレポートをまとめていたのは過去にはイビツァさんだし,つい最近まではホルガーさんですがね。),いわゆるトレンドでもあるでしょう。
 でも,バスケでもアイスホッケーでもそうですけど,「戦術的な枠組みから積極的に外れる」選手というのはある意味必要です。規格外,と言いますか。そんな“ボールを足元に収めた途端にドリブルを積極的に仕掛ける”ようなタイプの選手も,バスケットボール的なフットボール・スタイルには意味あるアクセントではないか,と感じるのです。


 チームが熟成度を深めたときに,指揮官がどのような“アクセント”を要求するか。ちょっと興味があるのです。