視界を言葉に。

2007〜08シーズンは,残念ながらトップイーストを主戦場とするセコム・ラガッツ


 狭山市にトレーニング・グラウンドを構えるなど,埼玉県との縁があるクラブではあるのですが,ちょっと「典型的な実業団チーム」という印象も強かったりします。


 最近はコカコーラウェスト・レッドスパークス九州電力キューデン・ヴォルテクスなど,積極的にラグビー教室などによってジュニア層などに対する普及活動を展開するクラブが増えてきているのですが,ラガッツはあんまりこの手のアナウンスメントがなかったりする。また,オフィシャルサイトに掲載されているチーム理念を読んでみても,トレーニング・グラウンドを構えている狭山市,あるいは近隣地域に対する普及活動に関しては触れられていなかったりもする。実業団ベースのクラブにも期待している立場としては,いささかもったいないな,と思っているわけです。


 さて,そのラガッツの2007〜08シーズン体制(ラガッツ・オフィシャル)には,ちょっと驚きを含んだ懐かしい名前が掲載されています。


 バックスコーチに就任する岩淵健輔さんです。


 最初に彼のプレーを見たときには,ありきたりな言い方ですが「衝撃」を受けました。
 タイトルにも書いてありますが,彼の「視界」に衝撃を受けた,というのが最も正確な表現かも知れません。コンビネーションが熟成しやすい環境にあった,というアドバンテージもあったとは思うのですが,トリッキーなパスによって局面を打開する,というスタイルを持っていました。大学時代,決して強豪とは言えないチームにあって,突出した印象を与えもした。
 ディフェンスを破る,というときに,フィジカル・ストレングスを主戦兵器とする,という選択はテストマッチなどではなかなか難しい。それよりも,コンビネーションの熟成によって,ボールをプレッシャーがかかる前に展開させていく,という選択が効果的になる。
 そのときに,全体的なイメージを即座につかみ,高いハンドリング・スキルを基盤とするパス・ワークによって攻撃を成立させようとした岩淵選手のスタイルは,JKさんが意識しているラグビー・スタイルと,どこかでつながっているような感じもするのです。


 そして,今度は彼がコーチとして,その視界を選手たちに落とし込む。


 彼が持っている戦術的なイメージを,どのような言葉で選手たちに伝えていくのか。そんな部分にすごく興味がありますし,トップイーストでの戦いを通じて,どれだけ岩淵選手のエッセンスが表現されるのか,ちょっと興味があります。


 そして,理想を言うならば,岩淵選手のようなスタイルをこどもたちに体験させてやってほしい,と思いますね。


 セオリーに忠実なパス・ワークであったり,ハンドリング・スキルを憶えることは大前提ではあります。ですが,局面を打開するためには必要に応じて,セオリーから外れたパス・ワークだったりボール・ハンドリングをする必要もあるはずです。「勝負」という部分を意識していかなければならない,中学生や高校生にとっては,大きなヒントになるはずです。それ以前の問題として,岩淵さんのパス・ワークは単純に「面白い」はず。ラグビーの面白さを伝えるには,最適任でもあるような気がします。


 高校生レベルの選手にとっては,戦術的な部分で大きなインパクトを与えるだろうし,ジュニア層にとってはラグビーの自由さであったり面白さを表現してくれる。そんな期待があるだけに,ラガッツさんにはちょっと期待してしまうのです。