対モンテネグロ戦(キリンカップ2007)。

ちょっと,アメリカン・スポーツとの類似性を感じさせるところがありますね。


 特に,クイックネスが要求されるバスケットボールであったり,アイスホッケーに近いイメージを持っているのかな,と思いますね。バスケットボールで言えば,“24秒ルール”という存在がありますから,仕掛けのイメージが高いレベルで共有されていないと攻撃が機能不全に陥ってしまうし,アイスホッケーだとパックの速度がとんでもなく高かったり,猛烈なフィジカル・コンタクトを受ける可能性があるから,ひとりの高い能力に攻撃の多くを依存するわけにはいかず,チーム全体がひとつの壁のように縦方向に移動するような仕掛けが必要になっていく。


 そんなイメージを持っているのかな,と思うところがあります。


 ということで,いつもの通りノンビリとキリンカップ2007であります。


 何と言いますか,「基盤」は構築されつつあるな,と。


 で,指揮官は明確に言ってはいないけれど,ゆっくりとしたビルドアップから仕掛けるタイミングで,もっと明確なメッセージが中盤の底だったり,最終ラインから出せると良い,なんて思っているようだ,なんて感じます。緩やかなリズムから,“24秒ルール”の減算タイマーを押すような仕掛けのプレーと言いますか,そんな部分を強く求めたいところですよね。タテに鋭いパスを繰り出したあとに,縦方向へと駆け抜ける,あるいはサイドへと大きく開きながらSBやサイド・ハーフのバックアップに入っていく。当然,SBやサイド・ハーフはさらに縦方向への意識を強めたオフ・ザ・ボールの動きを見せていく。そして,サイドが中央に絞り込んでいくような動きの中から相手守備ブロックのマークを外し,決定的な局面を作り出す。


 まだ,チームとして“ギア・チェンジ”の瞬間がハッキリしているわけではない。それだけに,ボールをコントロールすると縦に急ぎ過ぎるときもあるような感じがします。


 ただ前半は,ボールとひとがシンプルに動くという形が比較的あったような感じがします。また,CKからの先制点奪取はイメージする形がかなり明確に見えていたような感じです。視野が広く,正確なボールを繰り出せる選手が適切な距離感を保ちながらショート・コーナーを仕掛け,ちょっとしたディレイを演出する。当然,ショート・コーナーをチェックするために相手守備ブロックは引き出される一方で,ゴールマウスに詰めている相手に対するマークを外すわけにはいかないから,ノーマークになる選手が出てくる。その選手が大きく守備ブロックを回り込むような形でゴールマウス近くにまで侵入し,クロスを頭でゴールマウスへと流し込む。シンプルに映りはしましたが,かなりトレーニングで意識してきた形かな,と感じるところです。


 後半,システムを変更してからの動きはちょっとギクシャクしたところがあるようにも思いますし,自分たちから仕掛けると言うよりも,相手の仕掛けを受け止めることに意識が振り向けられざるを得ない時間帯が多かったな,とも感じます。そのときに,どういう局面打開をイメージするのか,という点で指揮官は工夫を求めているのではないか,と感じます。


 単純に,積極的に仕掛けていくプレーを否定しているわけではないはずです。主体的に「仕掛けてやる」という意識がなければ攻撃は怖さを持ち得ないとも思う。ですが同時に,「使い使われる」という意識を持ってもいないと,持っているパフォーマンスがシッカリと組み合わさることがない,という感じになるでしょうか。


 最初にちょっと触れた,アイスホッケーを例にとれば。


 パックを持ったプレイヤーがいる。確かにその選手は高いパフォーマンスを持っている。だが,この選手だけで局面を打開できるかと考えれば,難しいと言わざるを得ないはず。ガードを揺さぶり,ゴールから引き剥がす役割を持った選手や,パス交換の中からスペースを引き出すための選手が適切な距離感をもってその選手をバックアップしていなければ,そしてパックを持った選手が彼らを生かす,という意識がなければ,なかなか組織的に相手を崩すことはできないでしょう。外したからどう,と言うのではなく,周囲を生かし,さらに自分が生かされる,という形にならなければ,決定的な局面を作り出すのは難しい。一方で,組織的なプレーを作り出すのは当然ながらひとりひとりの持っているパフォーマンスであり,ポテンシャルでもある。その意味で,個の持っている能力が鍵を握ることには違いはないし,個の持っているモノを否定する理由もない。恐らくバランス感覚であったり,組織という,明確な立脚点を求めたのかな,と感じるわけです。


 それにしても,要求水準は相変わらず高いな,と感じますね。しかも,チームが進化していくべき方向性をあらゆる手段を使って(明示的にせよ,黙示的にせよ)示してもいる。やっぱりタヌキだな,と思うのであります。