収穫アリ、のフレンドリー。

仕掛けの方向性は間違っていない。


 となれば,どれだけ相手に対して敬意を払えるか、が問われるように感じます。


 ラグビー・ネイションだろうと,勝利が当然のこととして意識されるような相手だろうと変わることなく,フィールドに100%のパフォーマンスを叩き付けることができるかどうか,というメンタル・タフネスであったり,モチベーション・マネージメントがジャパンのパフォーマンスを引き出すための大きな要素になるのではないか,と感じるわけです。そして,クラシック・オールブラックスが見せた要素が,日本代表をさらに進化させる大きな要素になるのではないか,と見ています。


 ということで,今回は藤島さんのコラム(スポーツナビ)をもとに,フレンドリー・マッチのことを短めに。


 クラシック・オールブラックスというと,やっぱり名前で判断してしまうところがあります。


 確かに,“オールブラックス”はラグビー・ネイションズの中でも最高峰に位置付けられるチームですし,そのチームで中心的な役割を果たした選手たちがスコッドとなっています。いるわけですが,藤島さんが言うように,フィジカルな部分ではピークを過ぎている選手たち,という見方もできるわけです。


 ならば,日本が意識している,“スピード”という要素によって存分に振り回すこともできたはずです。加えて,藤島さんも指摘しているように,クラシック・オールブラックスは「調整不足」の状況でゲームに入ってきているわけです。となれば,箕内主将のコメントのように「勝たなければならない試合」という評価もできます。
 ですが,個人的には「勝たなければならない試合」を「勝てなかった」,その要素にこそ,日本代表がさらなる進化を遂げるための大きな要素がある。そう思うのです。


 端的な表現をしてしまえば,「老獪さを伴った戦術眼」でしょうか。


 恐らく,“クラシック”という形容語句の付かないオールブラックスのときにも,この「戦術眼」という要素はすでに存在していたはずです。ただ,強烈なまでのフィジカルであったり,高いテクニカル・スキルなどに目を奪われるような形で,意識に残らなかったのかも知れません。ただ,どんなにスキルフルであろうと,フィジカル・ストレングスに恵まれていようとも,その要素を最大限に引き出すのは「戦術眼」という要素であるはずです。藤島さんがクラシック・オールブラックスをして,「うまい。ずるい。賢い。」と表現した要素は,フィジカル・ストレングスがピークを過ぎたからこそ,ハッキリと見えたものではないか,と思う部分があるのです。


 いまの日本代表は,「スピード」であり「鋭さ」を主戦兵器としてRWCを戦おうとしていると感じます。ですが,80分プラス,ケースによっては90分に近い時間を速さで押し切ることができるか,というと難しい部分もあるはずです。
 そのときに,重要になるのは「リズム」であるはずです。相手にゲームの主導権を握られている時間帯に,再び攻勢を掛けるためにゲームを立て直す。あるいは,リズムが相手に流れそうになる時間帯に,その流れを巧みに引き寄せるために何が必要になっていくか。そんな部分を意識しながらプレーをできるようになると,スピードであったり鋭さが実質的な意味を持つようになる。そのきっかけとして,クラシック・オールブラックスとのゲームが意味を持ってくれるような印象があるのです。


 老獪な相手とのフレンドリーでなければ,そして,かつては強烈なまでのスピードやフィジカルを見せ付けた相手の老獪さを目の前にしなければ,このような要素はなかなかお目にはかかれないはずです。もちろん,ひとつひとつの局面を分解しながらどのような見方をすべきか,という分析も大きな意味を持つでしょうが,シークエンス,と表現される流れの中でどんなプレーをしていたか,実戦という高い負荷がかかった状態でクラシック・オールブラックスのプレーを受け止めていたわけです。最も意味のある学習機会だったように思うわけです。
 ただ,スタンド・オフのアレジ選手が骨折,長期離脱を余儀なくされるなど,必要以上に大きな犠牲を払ってしまったフレンドリー,という側面もあります。この「老獪さ」という相手が見せた要素を,どのようにチームの中に取り込み,さらなる進化の基盤へと転換していくか。日本代表にとって,ジャンピング・ボードになってくれるスペシャル・マッチではないか,と思うのです。