意外な劣等感。

思うに,産業転換が成功しているかどうかが,立場を変えたのだろうと思いますね。


 マンチェスターも,リヴァプールも同時期に繁栄期を迎え,恐らくほぼ同時期に衰退へと向かっていったはずです。


 もちろん,そのきっかけは「産業革命」ですね。


 マンチェスターで製造された製品は,リヴァプールへと運ばれ,当時物流の主力であった船舶によって各地へと運ばれる。いまはちょっとした観光スポットになっている,アルバート・ドックには往時を思わせる倉庫が残されていますし,ビートルズがメジャーへ駆けのぼるための重要なステップになった,“キャバーン・クラブ”は,確かもともと倉庫だったはずです。


 そんなマンチェスターリヴァプール。ビックリするほどに近いんですよね。


 ひさびさに,欧州版のエントリを,というのに,まるで関係ないマクラであります。ということで,ひさびさに杉山センセのコラム(goo スポーツ:NumberWeb)をもとに書いてみようと思います。


 杉山さんは,マンチェスター・ユナイテッドを追いかけているひとたちと,リヴァプールを追いかけているひとたちとの関係を「ローカルで身近な敵ほど憎らしく見える欧州人特有の“民族主義”」と表現されています。


 確かに,そういう部分もあるには違いない。違いないとは思うのだけれど。むしろ,この両者の関係を読み解くキーワードは案外,「劣等感」ではないか,と思うのです。


 と言いますのも,意外な話ですが,リヴァプールイングランドトップリーグでは案外に大きな存在なのです。


 “プレミアシップ”では,イマイチな印象があるかも知れません。前任指揮官であるジェラール・ウリエ時代にもUEFAカップを奪取すると同時に,FAカップリーグカップを奪い,“カップ・トレブル”という栄誉を受けてはいますが,リーグ戦では息切れを起こしてしまっているような感じがあります。この印象は,ラファエル・ベニテスをもってしても払拭しきれてはいない。というように,最高峰のリーグが“プレミアシップ”という名称へと変更を受けてからは,チャンピオンズという称号を手にはしていません。


 しかし,1970年代であったり80年代に目を向けてみると,間違いなく“ゴールデン・エイジ”と言うべき時期が訪れていたことが理解できるはずです。


 端的な証拠があります。2006〜07シーズンからユニフォーム・サプライヤーアディダスに変更された(と言うか,戻った)ことで,チャンピオンズ・リーグで使用されるユニフォームにはビッグイヤー獲得回数を示す,楕円形のワッペンが取り付けられています。そのワッペンには“5”が表示されています。欧州カップ戦を制覇していた時期は,リヴァプールが黄金期を謳歌していた時期とピッタリ重なるのです。


 ただ,このワッペンに刻まれている数字は,5以上にのびている可能性はあったはずだと思ってもいます。この可能性を断ち切ったのは,“ヘイゼルの悲劇”ですね。欧州カップ戦決勝,ユーヴェとのゲーム中に起きた事件であります。このあと,イングランドのクラブは欧州カップ戦への道を閉ざされることになります。その一方で,1989〜90シーズンまでリヴァプールイングランド国内タイトルを維持し続けてもいるのです。“フーリガニズム”がクラブの可能性を断ち切り,欧州でのプレゼンスを示す,その機会を奪った。“ゴールデン・エイジ”をある意味で空費させてしまったことになるわけです。


 対してマンチェスター・ユナイテッドでありますが。


 1990年代からの活躍だけを見ると,あまりに意外な感じがします。もちろん,“プレミアシップ”と名称が変更されてからを考えれば,「リヴァプールと比較するだけヤボ」と言いたくなるほどに,圧倒的な差をつけています。が,過去の成績を通算する形での国内タイトル獲得回数を比較すると,リヴァプールの後塵を拝しているのです。


 カップ戦,と言ってもFAカップではかなりの優勝回数を誇っているのですが,欧州カップ戦では,ビッグイヤーを掲げた回数が2回にとどまるマンチェスターは立場が大きく違う。「勝ちきれない」とか,「不思議なことに勝ち上がれない」という評価を受けてしまうことが多いわけです。


 となれば,今季にかける思いは大きかったはずです。


 ともすれば,イングランド勢による決勝が実現するかも知れない。そんなことを,誰もが現実的にイメージしたでしょうし,恐らく決勝でリヴァプールを退けることでちょっとでも溜飲を下げておきたい,そしてリーグ制覇の喜びを倍加させたい,と思っていたユナイテッド・フリークは多かったはずです。ですが,実際にはミランの軍門に下ることになるわけで。


 さて,決勝戦はユナイテッド・フリークがニヤッと笑うような,ということはインテル・ファンが苦虫を噛み潰すような結果となるか,それとも逆か。イングランドびいきのアウトサイダーとしては,インテル・ファンに喜びを提供してあげたいところですがね。