アジア3ヶ国対抗のことなど。

基本的にテストマッチではあるのですが。


 本当ならば,このアジア3ヶ国対抗の直後にラグビー・ネイションズの一角と「本格的な」テストができればよかっただろう,と思っています。


 そもそも,ラグビー・ワールドカップ(RWC)本戦へ設定された目標は,過去の成績を考えればかなり野心的なものとも映ります。その野心的な目標を現実方向へと引き寄せるためには,ラグビー・ネイションズとの距離感を明確に認識しておく必要があると思うのです。当然,通用しない部分も明らかになるでしょうが,反対に可能性を感じさせる部分も見つかるはずです。


 ちょっと失礼な言い方にはなりますが,アジア地区で「意味のあるテスト・マッチ」に見えてしまうようなゲームを戦うようでは,日本代表が掲げた目標,その実現可能性は限りなくゼロへと近付いてしまっていることを意味するはずだと思っています。明快な全体像ゆえの反省 〜リポビタンDチャレンジ2007・香港戦レビュー〜(スポーツナビ)というコラムを寄稿された藤島さんは,このコラムで「ミスマッチ」(一方的なゲーム)という言葉を使われていますが,逆に一方的なゲームを作れないようでは問題だと思うのです。


 この一方的なゲームの中で,どれだけ自分たちが表現しようとしている,そしてJKさんが狙っているラグビーが実現できたか,という評価があるべきかな,と。


 ということで,楕円球の話であります。


 どこか,イビツァさんとJKさんのアプローチには似たような部分があるような感じがしていたのですが,藤島さんの香港戦レビューを読んで,何となく見えてくるものがあるように感じられます。


 ごく大ざっぱにイビツァさん,そしてJKさんのスタイルを表現してしまえば,「速さ」を求めている,という感じになりそうです。しかし,この「速さ」という言葉を実質的なものとするための条件こそが,実は最も重要な要素なのではないか,と思うのです。
 フッカーである山本選手はインタビューでのコメントで,ラインアウトの「精度」について言及しています。
 基本的に,ラインアウトでは時間が使われがちです。まず,ラインを構成するまでに時間が掛かるし,スロワーとレシーバーとのサイン確認にも時間が掛かる。また,スロワーがボールをセットしてから相手ラインを揺さぶるためのワンクッションがあったりもします。その間に,相手はマークすべき相手を確認することが可能になるし,ケースによってはレシーバーを確認して,ボールを奪う可能性もふくらんでいくことになるわけです。となれば,ラインアウトから攻撃に入るまでの時間を短縮することで,マイ・ボールを確実に確保し,ひいては攻撃面での数的優位の状況を作り出そう,という意識なのでしょう。
 ただ,ひとつひとつのプレーでのスピードを引き上げていけば,当然スローイング・ミスであったり,キャッチング・ミスが発生する可能性も上がっていく,かも知れません。そのときにモノを言うのは,プレーの「精度」であり,その裏付けとなるベーシックなハンドリング・スキル,そしてスキルを安定して発揮させるためのフィジカルだったりするのだろう,と思うのです。相手のプレッシャー,あるいはスピードという負荷が掛かっても,持っているスキルを安定して発揮できれば,ミスが誘発される可能性は下がっていく。


 ・・・とは言え,コレが最もきついことだと思いますが。


 「速さ」というと,ボール展開の速さであったりパス・ワークの速さがイメージされるところです。ただ実際には,「ボールを速く走らせる(展開させる)ための条件」がその裏にはあって,この条件が整っていないと,速さがチームとしての「怖さ」へとなかなかつながってはいかない。当然,戦術的(組織的)な部分でひとりひとりのイメージを束ね上げていくという部分も必要ですが,チームとしての速さを作り上げるのは,ひとりひとりの持っている判断能力だったり戦術眼,もちろんテクニカル・スキルでもあるはずです。これらが安定して発揮できないと,戦術的な部分をどれだけ洗練させようとも,表現が不十分なままに終わってしまう。
 JKさんが就任以来,なかなかにハードなトレーニング・メニューを組んでいるというのは,できるだけ実戦に近い負荷を選手たちに掛ける中で,それでも自分が持っているパフォーマンスを安定して発揮できることを求めているからかな?と思うのです。


 イビツァさんが,判断能力だったり戦術眼方面で負荷が高いトレーニングを課している,というのは,JKさんだったり,ブレイブルーパスの指揮官だった薫田さんとどこか共通するところがあるような感じがするわけです。


 確かに,韓国代表や香港代表を相手とすれば,日本代表に掛かる「負荷」はラグビー・ネイションズからのプレッシャーよりは緩いものかも知れません。それでも,「考えながら修正する」ことを意識しながら戦っていた。コレは,RWC本戦に向けて,結構大きな収穫ではないか,と思うのです。