「速さ」の方向性。

「速さ」という言葉から通常イメージするものは,攻撃的なものではないでしょうか。


 しかし,ラグビーフットボールでは「守備的」な部分でも速さは重要な要素であるような感じがします。ということで,ジャパンが見せたJ・Kイズム 〜リポビタンDチャレンジ2007・韓国戦レビュー〜(スポーツナビ)というコラムをもとに。


 よく,ラグビーでは「集散の速さ」という言葉を使ったりします。


 たとえば,ボール・キャリアーに対してタックルに入るとします。このときに,キャリアーを止められたとしても,あるいは完全に止めきれないにしても,周囲からの効果的なサポートが得られないと,相手の攻撃リズムを寸断することはできないし,逆襲のための起点を構築することもできません。このケースでは,どれだけブレイクダウン・ポイントに速く選手たちが集まれるか,という「集」の部分が問われることになります。


 逆に,ラックやモールなどでのボール争奪をイメージしてみます。FWだったり,BKもボール争奪に参加していますから,結構な人数がポイントに集中しています。ただ,このポイントだけに意識を集中しているわけにはいかないのも確かです。相手がボールをコントロールしていたとすれば,大きくボールを展開することも予想されます。その展開をできるだけ早い段階で抑え込まないと,エリアによっては得点に直結しかねない。となれば,ボールが出された段階でどれだけ速くポイントから離れ,守備のための態勢を取れるか,が問われることになる。「散」の部分です。


 そして,このコラムでは「散」の部分でチームの意識が徹底され,速さを感じられたことが,韓国の逆襲に備えて素速くディフェンス・セットに入った局面を抜き出して触れられています。


 ごく当然のことのように感じられるけれど,この当然のことを当然のこととしてゲームを通じて徹底するのは,意外にも難しいように思います。


 日本の武器としては敏捷性であったり,緻密さがあるようによく言われますが,これらの要素は単純に攻撃面にだけ当てはめられることではなく,「攻撃の起点」を提供する守備面においても当てはまることです。それだけに,緻密さをゲームを通じて徹底できるだけのフィジカルだって重要な要素になる。ヘッドコーチに就任したジョン・カーワン(JK)さんの練習が相当にハードであることは,選手たちのコメントなどからもうかがえるところですが,敏捷性や緻密さを安定して発揮できないと,強みが安定しない,ということを意識したことなのだろう,と感じます。


 ただ,初戦でありますから当然,荒削りな部分もある。ゲームをどのように組み立て,「速さ」を強烈に印象づけるためのリズムを作り上げていくか,などの部分もこれからは求められるか,と思います。このことを差し引いても,速さを攻撃面だけでなく守備面においても最大限に生かし,日本が持っている戦術的な緻密さであったりを引き出そうとするスタイルは感じられる。


 RWC本戦に向けて,どんな熟成が図られていくのか,すごく楽しみであります。