対シリア戦(U−22アジア2次予選・アウェイ)。

前半と後半で,明らかに印象の異なるゲームでありました。


 端的に言ってしまえば,後半は「受けて」しまった時間帯がいささか多い。


 チームが持っているポテンシャルを思えば,相手の攻勢を受け止め続けることも十分に可能だろうとは感じますが,相手の仕掛けに引きずられながら守備を繰り返せば,予想外のクラックを守備ブロックに生じさせる可能性もある。


 「守備的に」後半を戦うにしても,その裏側に「いつでも攻撃を仕掛けられる」という雰囲気を漂わせておくべきだと感じるのですが,後半は相手のプレッシャーが強まっていたこともありますが,ボールが中盤,あるいは前線へといい形で収まらない局面が増えてしまって,最終ラインが自陣深い位置から押し上げていくタイミングを失ってしまったな,という印象を持っています。


 こんな状況に陥ったときに,誰が流れを引き寄せる役割を果たすのか。


 もちろん,戦術交代によって,明確なメッセージをピッチに送るという方法もあります。このケースで,役割を果たすのはコーチング・スタッフでしょう。


 中盤でのダイナミズムをさらに高めることで,相手のプレッシャーを上回るプレッシングを仕掛けていくか。あるいは縦へのスピードを主戦兵器とする選手を送り込むことで,カウンター・アタックをチームとして意識することを明確にするか。戦術的な意図を,交代する選手にタクティクス・ボードを通じてシンプルに伝える。そのメッセージを,戦術交代によってピッチに立っている選手たちへと浸透させる。


 もうひとつは,ピッチにいる選手たちが「自律的に」ギア・チェンジを仕掛けていくという方法ですね。


 守備ブロックを形成する最終ラインの選手でもいいし,ディフェンシブ・ハーフでもいい。積極的にポジショニングなどに対するコーチングをしていくといいな,と思うわけです。


 北京世代のチームを見ていると,すごくスキルフルな選手が多いな,と感じます。同時に,強烈な自己主張をしていく選手が少ないな,という感じもします。


 フィニッシュが決められたかどうか,あるいはパスがいい形で通るかどうか,というのは結果論。自分が仕掛けられる,フィニッシュまで持ち込めると思うならばガツガツ仕掛けていいし,逆にオフ・ザ・ボールでスペースを巧く作り出したならば,パスを出さなかった選手に対して「なぜ出せない!」と主張くらいしたっていい。


 自分のスキルを最大限に活かすには,相手によって活かされる必要もある。ならば,どういう活かし方をされたいのか,オフ・ザ・ピッチのコミュニケーションだけでなくて,オン・ザ・ピッチのコミュニケーションを積極的にとっていくべきでしょう。確かに,表面的には「ワガママ」と紙一重に感じるけれど,そのきっかけが自分が目立つこと「だけ」にあるのではなく,チームを勝たせることにもあるのならば,積極的な自己主張は否定されるべきものではない。そんな要素が少ないような感じがするのです。


 この年代における「完成形」というのは恐らく想定するべきではないし,言ってみれば発展段階のままフル代表へとブリッジしていくようにも感じます。ただ,このチームで,最も「発展途上」,そして熟成の初期段階にあるのが,持っているスキルの活かし方であり,活かされ方ではないか,と思っています。「闘う気持ち」なんて言うとメンタルだけを強調した印象になりますが,ひとりひとりの選手が持っているスキルや戦術眼を,チームのスキルであり,あるいはチーム全体としての戦術眼へと束ね上げていくときの重要な要素だと感じるのです。気持ちを外へと押し出す手段が,コーチングだと感じるわけです。そのコーチングが,チームにダイナミズムを与え,あるいは取り戻させるきっかけになるといい,と思うのです。


 ピッチサイドで音を拾うマイクからは,コーチング・スタッフの声はよく通っていました。


 このマイクが,ピッチに立つ選手たちの(あるいは怒号に似た)声を多く拾うようになると,チームの熟成段階がさらに進むことになるのかな,と思ったりします。