センバツ(ラグビー版・あとがき)。

ちょっと,スケジュールから考えてみますに。


 基本的に,各高校が狙うのはラグビー高校選手権,その都道府県予選だと思います。


 近鉄花園への指定席切符を奪取すべく,戦いを挑む。すでに全国レベルを現実的な視野に収めているチーム,あるいは全国制覇までを射程に入れているチームであろうとも,県予選初戦で不覚を取るようなことがあれば,近鉄花園への道筋は断たれることになる。逆に,全国を意識しているチームを何とかして倒そうと,意識しているチームもあるに違いない。となれば,設定目標の違いは厳然と存在しているにせよ,すべてのチームにとって熟成の最終段階は,都道府県予選が始まる時期に設定されているはずです。この時期までに,チームを完成させ,それぞれのレベルで結果を残せるように意識していると思います。


 対して,1,2年生を中心に組まれる新人戦は,チーム構築のごく初期段階,と言ってもいいような感じがします。


 熟成の方向性によっては,どのような進化を遂げるかどうかわからない。ただ,少なくともチームが持っている潜在能力を感じることはできるはずだし,そんなチームが結果を引き出す,というのは恐らく,そのチームがもともと持っているストロング・ポイントを示してもいるかな?と感じるところがあります。8回目を数える選抜ラグビーを初制覇した,伏見工にも恐らくこのことは当てはまるのではないでしょうか。


 ということで,選抜ラグビーのまとめをしてみようか,と。


 この大会では,思いのほか「東西バランス」はシッカリしていたな,という感じがします。


 準決勝のカードを見てみると,桐蔭学園(神奈川代表)−東福岡(福岡代表),伏見工(京都代表)−仙台育英(宮城代表)と,見事に東西のバランスが取れたカードになっていました。このうち,伏見工仙台育英戦については,京都新聞さんの記事がとてもわかりやすい,ゲームレポートになっています。
 この記事を読む限り,伏見工はテクニカル・スキルというよりも,冷静な判断力と戦術眼によってゲームの主導権を掌握する,というスタイルをチーム構築の初期段階にして確立しているような感じです。決勝戦に関する記事(京都新聞)を読んでも,そんな印象を持ちます。


 ちょっと乱暴なことを言うようですが,フィジカルやパワーもラグビーフットボールを戦ううえで重要な要素であることは確かですが,それ以上に「対戦競技」である以上,相手の持っている弱点を冷静に判断したり,ゲームの流れを読み取るという部分での“インテリジェンス”が最も重要な要素ではないか,と感じます。今でこそ,戦術的な交代がラグビーフットボールでも許されていますが,伝統的にラグビーコーチング・スタッフがフィールド・レベルにはおらず,キックオフから前半が終了するまで,また後半のキックオフからノーサイドまで,チームが抱える課題を自律的に修正する必要があります。表面的なパワーであったり,スピードに隠れがちではありますが,実際にはゲームの流れをつかみ,どのようなプレーをしていくべきかを判断する,表面的にはわかりにくい部分こそが最も重要であるように感じられるのです。
 ひとりひとりがシッカリとした戦術眼を持ち,その戦術眼がシッカリと束ねられていること。フットボールでも当然のように要求されることですが,この要素が1,2年中心で構成されているこの時期のチームでも充足されている。このことは,チームを熟成させていくにあたって相当大きなアドバンテージではないか,と感じるのです。


 数ヶ月後,近鉄花園で開催される高校選手権において,伏見工が同じような“インテリジェンス”を感じさせる戦いを見せてくれるか。それとも,京都成章など有力なライバルが,彼らをねじ伏せて花園への指定席切符を奪い取るか。
 いつもならば,埼玉県代表を中心に見てしまうところですが,今回の大会は,アウトサイダーとしても(そして恐らく,京都のラグビー・フリークにはなおさらに)すごく興味をひかれ,先が楽しみなチームが優勝を飾ったな,という感じがしています。