最強規定と「奇策」。

いわゆる,「最強規定」。


 Jリーグ規約第42条,および該当条項の補足基準であります。


 ディビジョン1,ディビジョン2やリーグカップ戦でのスターター,その少なくとも6人は,直前の「リーグ戦」5ゲームのうち,1ゲーム以上で先発出場していることを求めているわけです。


 この規定の鍵は,「基準」を構成するゲームが「リーグ戦」であることです。「リーグカップ戦」を,直前5ゲームに含めているわけではない。ということは,(ACLに参戦している浦和,川崎を除き)カップ戦を含めて6ゲームを消化はしているものの,リーグ戦は第4節を終了しているに過ぎないために,この規定は適用されないことになる,わけです。


 そして,柏の石崎監督はこの規約をシッカリ読み込んでいた,ということになるようです。


 ということで,柏石崎マジック、先発11人総入れ替え(nikkansports.com)という記事をもとに。


 表面的に見れば,日刊の広重さんも指摘するように「対戦相手を見下している」かのような印象を与えもします。ディビジョン2を戦っていた昨季を考えれば,主力選手として位置付けられていた選手が多くいるのは確かですが,今季においてスターターを経験している選手か,と言えばそうではない。


 それゆえ,石崎監督のやり方は「奇策」のようにも思えます。


 ただ当時に,石崎監督の意図を推理すれば,「今しかない」という考え方にも行き着くように思えるのです。


 ちょっと前提からはじめますと。


 リーグ戦は,チームの持っている総合力が厳しく問われると言っていいでしょう。ゲームにおいて「勝ち点3」を奪取するためには,当然ながら強力なスターター・ラインアップを持っていることが必要になりますし,彼らの戦術理解度が高みで安定していること,そしてフィジカル・コンディションがいい状態で維持されていることが求められるように思います。


 しかし,チームが常に「理想的な状態」でリーグ戦を戦えるかどうか,と言えば,実際にはいずれかの要素が微妙に欠けている,あるいは不足している状態で戦う時期の方が多いかも知れません。特に,連戦を戦わなくてはならない時期や,あるいはリーグ戦終盤にあっては,要素が欠けることがチームのポジションに直結しかねないように思うのです。リーグ戦最終盤,シビアな優勝争いであったりポジション争いを展開している時期にあっては,誰がスターター・ラインアップに入ろうともチームのパフォーマンスをできるだけ安定させておきたいはずです。


 にもかかわらず,主力選手とリザーブとの間で戦術理解度などで大きな差ができてしまっているとなれば,同じクラブでありながら,チームの構成によって実際にピッチで表現できるフットボールに違いが生じかねません。ひとりひとりが持っているパフォーマンスを巧みにつなぎ合わせる中から組織を構築するアプローチならば,ある程度の柔軟性を持っている部分もあるかも知れないが,チームとしてのパフォーマンスが高い組織性や連動性に大きく依存しているとすれば,主力選手離脱によるパフォーマンスの低下は,リーグ・テーブルのポジションに大きく影響しかねない。そのときに,チームのパフォーマンス低下を最低限に食い止めるためには,チームとしてのベースを極力広げておく必要がある。しかも可能な限り早い段階に。


 こう考えていくと,「最強規定」に縛られない可能性があるリーグカップ戦(予選リーグ),その初期段階は,チームの基盤を大きく広げるための貴重な実戦機会,という見方になるように思うのです。そして,石崎監督は,この貴重な実戦機会を逃さないためにリーグ・サイドへと打診したのでしょう。そして,「最強規定」の対象とはならないことを確認し,今回のような決定へ至ったのではないか,と。


 確かに,「奇策」のような印象を与えもするけれど,実際にはチームのパフォーマンスを安定させ,チームのコンディションが低下しかねない時期にも安定した戦いを続けるために必要とされるアプローチ。そんな意図も見えるような気がします。