競争原理。
チームからダイナミズムを奪うものが何か。
恐らく,イビツァさんはハッキリと意識しているということなのでしょう。
確かに,一次発表ではFWはひとりしかリストに登載されませんでした。Jリーグを戦うFWで,しかも代表招集経験を持つ選手たちのコンディションが十分に上がっていないことをチェックした上での「追試」という意味合いもあるかも知れません。
ですが,FWに対するメッセージと言うよりも,すべての選手に対して“代表チームには「指定席」なるものは存在しないし,誰に対してもシートは用意されている”という強烈なメッセージを送っているように見えるのです。
当然,このことを裏返せば,”ペルー戦に選出されたからと言って,将来的に選出され続けるなどという保証を与えるつもりなどない”というメッセージにもなると思います。オシム日本がFWの“追試”を実施 - サッカー日本代表ニュース(nikkansports.com)という記事をもとにして,書いていきますと。
「決定力不足」,とよく言われたりするし,実際に言ったりもします。
ただ,この中身をよく考えてみると,案外不確かなことを言っているような感じもします。実際問題として,FWだけが得点を奪うわけではない。チームとしてどういう得点奪取のスタイルがあるか,どれだけその引き出しを持っているか,という部分を落として,単純に「決定力」という部分,しかもFWの能力に原因を求めるのは,ちょっと違うような感じもするわけです。
ちょっと野球的な発想をしますが。
どんなに高い能力を持った打者であっても,50%という数字を叩き出す,なんてことはあり得ない。いわゆる3割打者,という言い方にしてもネガティブな言い方をすれば,2/3は失敗していることになる。ただ,失敗といっても,質的に分類することができるはずです。
当然,力負けした結果としての失敗もあるかも知れないし,長期的なスランプに見舞われた結果としての失敗もあるでしょう。しかし,多かれ少なかれ,どんな選手でもコンディションの波からは逃れられない。そのときには,その選手がどういうコンディションの波を持っているのか,なんて見方もあるし,その波が大きく振れるのか,それともピークからの落ち込み幅がごく少なくてすむのか,という見方もあります。
で,フットボールの話に戻りますとですね。
代表チームにあっては,持っているポテンシャルもリスト登載に関する判断材料でしょうが,実際にピッチで表現できているパフォーマンス,そしてそのパフォーマンスのベースともなるコンディションをも判断材料にしてチームを組み上げることになるわけです。
実績重視,というのはある意味で選手が持っているパフォーマンス,その100%近くをイメージしてのことでしょうし,ポテンシャル重視という言い方もあるでしょう。ですが,イビツァさんは「実際に」発揮できているパフォーマンスを意識して選手を選考しているように見える。そして,その原理原則が最も理解しやすい,FWというポジションを使って,ポテンシャルやパフォーマンスも大事だけれど,パフォーマンスのベースとなるコンディションもしっかりと見ている,というメッセージを出したのだろう,と。
選手にとっては,緊張を解くことのできない環境でしょうが,逆に代表チームにあっては競争原理を厳格に適用することこそが,チーム全体としてのパフォーマンスを高めていく。たかが選手発表なのだけれど,「されど」発表だな,と思うわけです。