時計の針と。

確かに,サー・アレックスは重大な例外かも知れないな,と。


 ひとりの指揮官がフットボール・クラブを率いる時期というのは,決して長いものではありません。クラブと締結する契約にしても,基本的に複数年契約を締結するなどというケースはごく稀であり,単年度契約が圧倒的な多数でしょう。その単年度契約にしても,満了できずに終わるケースも少なくない。ある種の皮肉を込めて,キャディ・バッグに収まっているクラブの本数よりも,自分が率いてきたクラブの数の方が多い,などと機知に富んだコメントを残している指揮官もいるくらいです。それほどまでに,ひとりひとりのフットボール・コーチに与えられている時間的猶予は多くない,ということなのでしょう。


 サー・アレックスでさえ,マンチェスター・ユナイテッドを引き上げるには相当な時間が掛かっている。とすれば,戦術的な熟成度によってチームのポテンシャルを最大限に引き出すアプローチを使っているイビツァさんにしてみれば,「時間」という要素は「敵」のように映っているかも知れない。
 木崎さんの[スコアカード] かつての教え子が明かす監督オシムの「悩み」。(goo スポーツ - NumberWeb)というコラムには,この「時間」に対するイビツァさんの意識がノイキルヒナーさんへのインタビューを通して透けて見えています。


 「代表と言えば」,という確固たるフットボール・スタイルが確立されているとは言いがたいし,Jリーグを代表するフットボール・スタイルという観点からも,代表に選出されている選手たちが共有できる戦術的なイメージ,その幅は決して広くはないだろうと思います。それだけに,「代表チーム」としての明確なフットボール・スタイルを確立したい,というのは指揮官の本音でしょうが,クラブ・チームとは違って,拘束期間があまりにも短いから戦術的基盤をトレーニング・メニューを通じて構築するにも限界がある。


 代表という性質を考えれば,ひとつひとつのゲームに対して「結果」が求められ続けるのは必然なのだけれど,それ以上に「目標」を明確に設定し,その目標に対してどのようなアプローチをしていくか,という観点からゲームを戦っていくことも求められる。それだけに,実戦を通してチームが進化していく過程を見ることができる,という面白さはあるのだけれど,進化のスピードを劇的に引き上げることはなかなか難しい。


 木崎さんは,結構面白い提案をされています。拘束期間を1日だけ増やすと良いのではないか?と。


 確かに,このアイディアは大きいな,と感じます。クラブを追いかける立場から言えば,「何を!」と反応したくなる話でもありますが,ゲーム翌日は戦術的に巧くイメージが描けた部分と,ひとりひとりの選手が持っているイメージに,微妙な(あるいはそれ以上の)ズレを生じた部分と,明確な印象が残っている時間帯だろうと思うのです。その時間帯を利用することで,戦術的なイメージの浸透を早めるということはできるのではないか。
 クラブ・サイドの協力なしには成立することではないけれど,この木崎さんの提案,JFAとしては検討していいものではないか,と思うのです。