シックス・ネイションズ(2007年版・その2)。

これほど注目を集める最終節もないでしょうね。


 ということで,6ヶ国対抗戦であります。


 今季は,3勝1敗(第4節終了時)という戦績でアイルランドイングランドとフランスが並んでいます。
 この激戦を演出してしまっているのが,「奇妙な均衡関係」とでも言うべき3チームの関係であります。面白いことに,「1敗」のゲームが絡み合ってしまっているわけです。アイルランドは,本拠地であるクローク・パークでのフランス戦に僅差で敗れ,そのフランスは第4節,敵地・トゥウィッケナムに乗り込むわけですが,26−18で敗れてしまう。そのイングランドは,アイルランドのホーム・グラウンドで敗戦を喫しているわけです。


 ひとつのチームが加速態勢を崩すことなくリーグ戦を駆け抜ける,という感じではありません。むしろ,下位に沈んでしまったチームのために「結果的に」混戦となってしまった,実質的には混戦のリーグ戦が今季のシックス・ネイションズではないか,と思うところがあります。
 であれば,恐らく優勝の鍵を握るのは優勝の可能性を残しているチームではなくて,むしろ下位に沈んでいるチームではないか,とも思います。


 確かに,2006〜07シーズンのシックス・ネイションズは上位3チームと下位3チームとが明確に分かれてしまいましたが,実力差を明確(忠実)に反映している結果というのもちょっと違う感じがします。最終節には,「勝ち点2」を奪取して対抗戦を終わろうという意識付けが強くされているでしょうから,簡単に勝ち点2を計算できるわけではない。
 可能性の問題ではありますが,時間差でマッチ・レースになる時間帯も生じるのではないか,と感じるところがあります。


 このようなリーグ戦を演出した一方当事者(しかも最右翼)が,最下位であるウェールズです。


 戦績で言えば,“0勝4敗”。これだけでもかなり気になる要素なのですが,その背後にあるものがどうしても気になります。
 端的に言ってしまうならば,あまりに“ナイーブ”な戦い方をしているな,と感じるのです。勝ちきれないというか,踏みとどまれないというか。そして,ゲームを“ペナルティ・ゴール”という要素によって失うケースがいささか多い。
 この意味で今季のウェールズを象徴するゲームは,フランスとのアウェイ・マッチではないか,と思います。そこで,フランス戦のマッチ・スタッツ(RBS 6nationsオフィシャル・英語)を引っ張り出してみると。


 トライ(コンバージョン・ゴール)奪取数だけを見ると,勝ち点2を掌中に収めたフランスよりも多いのです。ただ,ペナルティ・ゴール数を見ると,明らかに差が存在する。
 フランスの攻撃は,トライに直結するものではなかったにしても相当な圧力としてウェールズに掛かっていて,ウェールズはその圧力を守備応対だけで跳ね返せない時間帯が多かった,ということをこのスタッツは示しているように思えます。守備面で「決定的な」破綻は恐らくないのだろうけれど,微細な破綻はかなりあるのではないか,と。微細な破綻が積み重なっていくことで,ひとりひとりがしっかりと連動した守備応対が難しくなっていく。


 どんなに僅差の実力差であっても,ラグビーフットボールという競技はその実力差をファイナル・スコアへと反映させてしまう部分がある。強靱なフィジカルを背景とする,「格闘技」的な部分が強調されがちではありますが,実際には高いテクニカル・スキルやひとりひとりのメンタル・タフネスなどが基盤となるひとつひとつのプレー,そしてそのプレーを束ねていく戦術的なイメージがどれだけ明確に描けているか,という部分にこそ差が存在している,ということをこのゲームは示しているようにも思うわけです。


 さて最終節,ウェールズは本拠地であるアームズ・パークに,イングランドを迎えます。


 イングランドとしては,目覚めてほしくはない相手でしょうが,ウェールズとしてもネガティブなイメージを引きずったままにシックス・ネイションズを終えるわけにはいかない。
 最終節,波乱を起こす可能性があるとすれば,このゲームかな?と思ったりもするのです。