強さの源泉とは。

正直なことを言えば,意外であったと同時に納得させられるものでありました。


 【日本ラグビー検証】(上)チーム運営の功績光った東芝(SANSPO.COM)という連載記事,その1回目を読んで,なるほど・・・,と思ったわけです。


 どうしても,アソシエーション・フットボール方向からラグビーフットボールを眺めてしまいがちになってしまうために,「プロフェッショナルならば」という評価基準を持ち込みがちになってしまうのですが,この記事で触れられているブレイブルーパスのアプローチは,基本的に“プロフェッショナル”という概念とは遠いところにあります。


 そして,遠いところにあるがゆえに,強さを発揮したようにも感じられるのです。


 確かに,プロフェッショナル契約が認められるようにはなりましたが,セカンド・キャリアという部分を見ると単純にプロフェッショナル化を推し進めるわけにはいかない,とも言えるように感じます。たとえば,コーチング・ライセンス制度の創設,拡充や高校,中学レベルでの指導者交流,クラブ単位での下部組織の構築などが同時並行的に進んでいかないと,セカンド・キャリアの選択肢が広がっていかない。
 また,純然たるクラブ・チームがトップリーグ参戦へ向けて動いている,というわけでもないから,クラブ間の移籍が活発に進むわけでもなく,ましてやトップリーグに参戦しているクラブから,トップイーストやさらにその下で戦うクラブへと移籍していく選手は皆無に等しい。さらに言えば,ラガーマンとしてのキャリアはフットボーラーとしてのキャリアよりも恐らく短い。


 こんな部分を冷静に見据え,社業と密接にリンクするシステムを作り上げていく。


 同時に,プロフェッショナルを意識する選手は獲得が困難になることから,視野を大きく広げ,「可能性」を持った選手を獲得していく。そして,彼らを徹底して鍛え上げる中から,チームを構築していく。結果,2007年度の代表スコッドを見ると,BK陣では4人(うち,ひとりはナタニエラ・オト選手),FWでも4人(当然,このうちのひとりはバツベイ選手ですな。)を輩出している。薫田さんの育成手腕が高く評価され,JRFUが立ち上げる年代別代表の強化を狙う育成組織,そのコーチング・ディレクター就任という話が出てくるのも頷けるところです。


 ・・・Jリーグが発足し,プロフェッショナルというものの可能性が現実に提示されていると,どうしても“アマチュア”というカテゴリを低く見てしまいがちになります。


 ですが,競技によっては単純にプロフェッショナル化を急ぐよりも,アマチュアとしてできることを突き詰めていくことで,強さを身につけていくというアプローチが最適解を引き出すこともある。この東芝ブレイブルーパスのチーム構築プロセスを見ると,企業とスポーツの関係は,決して単純に判断できるものではない,ということを感じさせるものがあります。


 とは言え,ラグビーフットボールがプロフェッショナル・スポーツへ,という大まかな流れには変化がなく,トップリーグも緩やかであるにせよ,プロへの流れに乗って行かざるを得ないだろう,とは感じます。そして,プロという姿を現実的に見据えるのであれば,もっとフィールドであったりクラブハウス以外の場所での環境整備をJRFUが本気になって取り組んでいかなければ,恐らくプロ化のデメリットだけが噴出してしまうことにもなる,と感じます。


 この懸念を,ブレイブルーパスの姿は裏付けているようにも思えるのです。

 
 このことと関連しますが,ある一点においてワタシは大いに不満を感じています。


 地域に根ざした活動は,企業スポーツの理想とはぶつかり合わないはずだと思うのです。
 CSR(Corporate Social Responsibility・企業の社会的な責任)などという言い方がされます。その一翼をブレイブルーパスが積極的に担えるはずだと思うわけです。
 たとえば。府中周辺の中学や高校にはラグビー部があり,そこには顧問の先生方がいる。彼らも大学時代であったり,高校時代には現役のラガーマンとして活躍しておられたはずです。でも,最新のコーチング・メソッドを常に吸収できるか?と言えば,必ずしも,そうとは言えないはずです。そのときに,最新のラグビー理論を持っているブレイブルーパスが,積極的にコーチング・クリニックを開催していくのも,ラグビーフットボールの裾野を広げ,間接的であるにせよ各年代別代表やフル代表のレベルを引き上げるのに,大きな意味を持つはずだと思うのです。


 企業スポーツとして,ある種の理想型を東芝ブレイブルーパスは提示しているかも知れません。
 ただ,そこで獲得できたノウハウが,どこにも還元されないのはいかにも惜しい。


 JRFUはJFAとは違い,一貫したコーチング・ライセンス制度を設けているわけではありません。それだけに,ラグビー理論が進んでいるエリアと,それほど進歩していないエリアとが混在してしまう。高校ラグビーを見ても明らかなように,意欲的な指導者の方が多くおられるエリアでは,チームも指導者の方同様に切磋琢磨できる環境になっています。大阪にせよ,京都にせよ,そして埼玉にせよ。ですが,このような環境にあるエリアはそれほど多くないようにも思えます。その地域間格差を上手く埋められる,そのひとつのきっかけになるのが,トップリーグトップイーストトップキュウシュウなどに参戦するクラブと,地域との積極的な交流ではないか,と思うわけです。


 実業団であろうとプロフェッショナルであろうと。地域との関係は決して「観客動員」にだけ直接的に結びつくものではない。ラグビーフットボールという競技を積極的にプロモートし,競技の裾野を大きく広げる。そして,最終的には代表チームのレベルを引き上げるきっかけになる。この部分を強く意識しておいていいと思うのです。