東芝ブレイブルーパス対トヨタ自動車ヴェルブリッツ戦(ラグビー日本選手権決勝)。
圧倒的,という形容詞は恐らく当てはまらない。
それだけ,ヴェルブリッツはブレイブルーパスに迫っていくことができたと思います。
時間帯によっては,ゲームのリズムを引き寄せられる可能性を感じすらした。
だが,実際にはリズムを引き寄せることはできず,レギュラー・タイムを経過しようかという時間帯に,ゲームを実質的に決定付けるトライ,そしてコンバージョンを奪われる。
直後に示された,アディショナル・タイムは4分。
1トライ1コンバージョンでは追いつかない,9点のビハインドを背負った状態ですから,ヴェルブリッツにとっては短すぎる時間かも知れません。それでも,ボールを積極的に展開し,エンド深くにまで攻め込みながらトライを狙う。
完全な守勢に追い込まれながらも,ブレイブルーパスは冷静にボール・キャリアーをバック・スタンド側へのタッチラインへと追い込み,タッチラインを割らせる。
直後,ノーサイドを知らせるホイッスルが響く。ラグビー日本選手権,その決勝戦であります。
結果的には,2季連続で東芝(昨季は東芝府中)ブレイブルーパスが選手権を制したわけですが,トヨタ自動車ヴェルブリッツも決して悪いゲームをしていたとは思いません。ただ,勝者と敗者を分けたものは“ディフェンス”という要素ではなかったか,と感じます。特に後半を見る限り,ブレイブルーパスが選手権奪取という結果へとたどり着き,ヴェルブリッツが届かなかった最大の理由はディフェンスだろう,と思うのです。
ヴェルブリッツは,巧みにモールをドライブしながらゴール・ラインへと攻め込んでいく。
どちらかと言えば,モールを駆使しての攻撃はブレイブルーパスのイメージが強いのですが,決勝でのヴェルブリッツはモールのコントロールが安定していて,相手ディフェンスが手薄な方向を的確に突きながら,前進を続けていました。
となると,あとはどのようにボールをグラウンディングするか,という部分なのですが。
ブレイブルーパスのディフェンスは,ここからが粘り強かった。
ゴール・エリアを背後に控えると言うよりは,自分たちがゴール・エリアへと入りながら相手のモールを受け止め,グラウンディングを阻止する。結局,トライを奪取することはできず,キャリー・バックを受ける。5mスクラムでゲームが再開されると,ボール・コントロールを鋭いプレッシャーからブレイブルーパスが取り戻し,エリアを大きく回復する。
ヴェルブリッツ・サイドから見れば,このチャンスを決めるか決めないか,という部分はゲームの流れを決定付ける部分があります。それだけに,フィニッシュであるグラウンディングが失敗してしまった,というのは大きかったな,と思うのです。
ハイ・タックルなど,ラフなディフェンスも見られただけに,あまり積極的にはほめたくない部分もあるのですが,それでもヴェルブリッツに対するディフェンス,という部分において,(僅差,かも知れませんが)確実に差があるな,と感じます。
タッチ・ラインを狙うかのように大きくボールを展開させ,タッチ・ラインを割るか,というエリアから縦への突破を図る。ディフェンス・ラインを大きく横方向へと広げる中から,ギャップを生み出すという意図が明確に見えるのですが,そんな状況でも的確なポジショニングからボール・キャリアーを正確に捕捉,タッチ・ラインへと追い込み,タックルを仕掛けながらタッチラインの外へと押し出す。
ヴェルブリッツにしてみれば,ブレイブルーパスの破壊力に屈したと言うよりは,決して決定的な破綻を生じない,執拗なまでの守備応対を破れなかった,という意識が強いのではないか,と感じます。ただ,ブレイブルーパスを自陣深くに釘付けにできるだけの攻撃力を持ち,そのポテンシャルは相当高いことは理解できる。このパフォーマンスを安定して発揮することができれば,”チャンピオンズ”という称号は現実的な射程へと収まるはずだとも思います。
逆に,ブレイブルーパスにしてみれば,どうしても攻撃面がクローズアップされがちではありますが,間違いなく自分たちの強さを支えているのはディフェンス面,という意識もあるでしょうから,存分にらしさを表現しての選手権奪取,という感じではないか,と。
リーグ戦においても,このような持ち味を存分に感じさせるゲームが増えてくれば,ラグビー・フットボールという競技の魅力が伝わっていくのではないか,と感じます。