東芝ブレイブルーパス対ヤマハ発動機ジュビロ戦(ラグビー日本選手権SF)。

ゲーム・プラン,を考えてみます。


 冬の秩父宮では,風が国立霞ヶ丘方向から青山通り方向へと吹き抜けていきます。
 特に,カップ戦が開催される時期は,季節風が強い時期と重なる。となれば,その風を積極的に味方とする戦い方を意識する重要性が高くなる。


 そのときに,考えなければならないのが相手との関係性です。


 実力的にほぼ互角,あるいはちょっと実力的に劣るかも知れない,というときには,前半には風下エンドで相手の攻撃をとにかく受け止め,失点を最小限に抑え込む。そして,後半に風上エンドのメリットを最大限に生かした攻撃を仕掛けていく,というアプローチを採用する。関東学院と対戦した,ジュビロの基本的なゲーム・マネージメントは概ねこのようなものだったでしょう。
 対して,「主導権」を意識したゲーム・マネージメントも成立するように思います。
 つまり,前半に風上サイドを選択することで,主導権を早い段階で掌握してしまおう,というアプローチです。恐らく,関東学院の基本的なアイディアは前半でできるだけリードを奪い,相手の戦意を喪失させよう,というものだったのでしょう。
 しかし,相手ディフェンスが組織的なものであり,そのディフェンスを効果的に破ることができなければ,リズムを掌握できないままに,後半に押し込まれてしまう,ということになる。


 となれば,このゲーム・プランを採用するには条件があります。


 まず,立ち上がりからゲームのリズムを掌握できるだけの高いモチベーションを持っていること。立ち上がりから積極的に相手ディフェンスへと襲い掛かっていけなければ,いかにアドバンテージを持っている風上エンドであろうとも,そのアドバンテージを生かし切ることはできないからです。
 次に,当然のことですが高いディフェンス能力が要求されます。しかも,体力的に厳しさを増してくる後半に,ケースによっては予想外のエリアへと振り回される可能性が高い風下エンドで的確な守備応対を繰り返していかなければならないのですから,ボール・キャリアーに対する鋭いタックルが仕掛けられること,最低限のユニットでボール・コントロールを回復できることなど,ディフェンスに対して要求される能力は高くなる。


 この条件を高いバランスで兼ね備えていたのが,ラグビー日本選手権準決勝での東芝ブレイブルーパスだった,ということになるのではないでしょうか。


 通常であれば,ジュビロのように後半勝負を意識して,前半では風下エンドを選択するところだと思うのですが,ブレイブルーパスはゲームのリズムをできるだけ早い時間帯で掌握することを強く意識したに違いない。風上エンドから攻め下ろす,という選択をした。
 そして,ブレイブルーパスは逆襲を許すことなく,28点というリードを築いてゲームを折り返す。BKの展開力という要素を取り出せば,確かにブレイブルーパスがその持ち味を存分に表現していたような印象があるけれど,FW戦を見ると,モールは確かに主戦兵器としているブレイブルーパスが優位を保っている一方で,スクラムではジュビロにアドバンテージがあるようにも感じられた。


 ただ,ブレイブルーパスのディフェンスはゲームを通じて安定したように思う。
 ボール・キャリアーに対するファースト・ディフェンスが鋭く,的確なものであり,そこからポイントでの数的優位を早い段階で構築,ボール・コントロールを取り戻す,というシークエンスが安定して表現されていたように感じる。


 ・・・とは言え,やはり風下エンドでのディフェンスとなった後半では,2トライ(コンバージョンはともに失敗)を奪われはしましたが。


 さて,ブレイブルーパスの課題ですけど。


 “オーバー・モチベーテッド”のような状態をいかに回避するか,という部分でしょうか。このゲームでもシンビンを受けていますが,決勝戦のようなゲームでシンビンを受けるようなプレーをしてしまうようでは,流れを手放してしまいかねない。モチベーションが高い状態でゲームに入っていくのは当然の前提だけれど,熱さがラフさに直結していくようだと,ゲームのリズムを落ち着かせられないことにもなる。
 決勝戦は特に,“自分たちのリズムで”,という部分が大事になってくるでしょうから,反則につながりかねないようなプレーは意識して抑えていかなければならない。
 ここまでくれば,「内容」と言うよりは「結果」を引き出すためのラグビーフットボールと言うことになるでしょうから,リスクはできる限り抑え込みたい。同時に,立ち上がりからゲームのリズムを握るべく,メンタル・マネージメントは徹底する。そんな方向性でのチーム・ハンドリングを薫田さんはしているでしょう。


 ヴェルブリッツブレイブルーパスともに,いまのパッケージでのゲームは最後になる。恐らく,期するところを持っているはずですし,その期するものはゲームを戦うための大きな要素にもなるでしょう。そのメンタルが,ポジティブな方向に作用してくれれば。


 スコアよりも,内容よりも。記憶に残るような,良いゲームになってほしい,と思いますね。